見出し画像

〝ついのすみか〟のはずが… 須江のバイオマス発電所計画 生活環境や交通に住民不安

 民間事業者が石巻市須江地区で計画している液体バイオマス発電所を巡り、住民に動揺が広がっている。住宅地や学校に近く、稼働後の大気汚染や騒音、振動、燃料輸送トレーラーによる登下校時の事故が心配されるためだ。東日本大震災の被災後、〝ついのすみか〟と決めて移り住んできた人も少なくなく、反対運動が広がっている。【熊谷利勝】

 「計画はそこで暮らす我々にとって百害あって一利なしというべきもの。強く中止と撤回を求める」

 10月下旬に遊楽館で事業者が開いた住民説明会で「石巻須江地区の環境を守る住民の会」と「須江地区保護者の会」が申し入れた。説明会には約100人が参加。そのほとんどは反対する住民で「津波の心配がないついのすみかを見つけて来たのに。寄り添ってほしい」などと涙ながらに訴える人もいた。

 反対運動が起きているのは、東京都の(株)G―Bioイニシアティブ(高橋俊春社長)=東京都=が、同地区の山林約8ヘクタールで計画している液体バイオマス発電事業。内燃力発電と呼ばれる方式で、植物油で10基のディーゼルエンジンを回して発電する。出力10万2750キロワット。直近の計画では令和4年2月ごろの工事開始、7年8月ごろの運転開始を目指している。現在は法令に基づき、事業者が調査する環境影響評価(環境アセスメント)の途中にある。

須江バイオマス反対要望 (5)

亀山市長に要望書を出す我妻さん(左)

 説明会には同社の高橋社長ら役員も出席し、建設から運営まで約280億円の地域経済効果や雇用創出効果、税収効果が見込まれることなどを強調。県内の津波の恐れのない内陸部で候補地を検討した結果、変電所に隣接した須江地区の候補地を選んだことも説明した。「反対される方々の意見は参考になる」「理解が得られるまで説明する」との姿勢を示した。

 住民が問題視しているのは、直線距離で小学校まで800メートル、保育所まで600メートルという立地。周辺は震災後に住宅を建てて移り住んだ人が多く、住宅団地のしらさぎ台も近い。少なくとも20年間、24時間稼働する計画であり、煙突からの排気ガスによる大気汚染や健康被害、タービン音などに不安を訴える。

 さらに地区内の道路はもともと狭く、震災後は採石場を往復する大型ダンプが増加。現状でも登下校時の事故が心配されるが、発電所が稼働すれば、さらに1日約33台の燃料輸送大型トレーラーが往復することになる。

 こうした中、住民の会と保護者の会は11月27日、亀山紘市長に発電所の建設中止・撤回を求める要望書を提出。地区住民3800人に対して内外から8千人を超える署名が集まっていることを報告した。許認可庁である経産省に慎重な判断を促す意見書の提出も求めた。

 市はこれまでのアセスメント過程で住民合意を得るよう指摘しており、亀山市長は「経産省への意見書が可能かどうかは検討しなければならない。住民理解が得られないのであれば、事業者に撤回を考えてほしいとの思いはある」と述べ、今後は事業者が出す環境影響評価準備書を精査していく。発電所進出には議員も関わっており、両会は市議会にも推進しないよう要望した。

須江バイオマス (1)

建設反対ののぼりがあちこちに上がっている

 事業所はすでに建設用地を取得済み。地権者の男性は「台風で倒れるおそれもある遊休山林。当時は原発への疑念が高まり、バイオマスはそれに代わるクリーンなエネルギーとの期待もあった。皆さんの不安を思えば売った側として心境穏やかでない」と話した。別の女性は「発電について無知だった。何ではんこを押したという電話も受け、後悔している」と明かし、今は反対運動に加わる。

 最近まで発電所の建設を知らない住民もおり、両会は署名集めと並行して事業者の説明会前に独自の学習会を開くなど準備。小、中学生の3人の子を持つ親で、震災で越してきた保護者の会の我妻久美子代表は「住民を無視した建設はあってはならない。大気汚染は須江地区だけのことではない。市全体の問題として捉えてほしい」と訴える。

 海から離れ、市街地や三陸道にも近い須江地区。もともとの農村地域には現在、「大迷惑」と書かれた赤と黄色の旗が民家のあちこちに立つ。


現在、石巻Days(石巻日日新聞)では掲載記事を原則無料で公開しています。正確な情報が、新型コロナウイルス感染拡大への対応に役立ち、地域の皆さんが少しでも早く、日常生活を取り戻していくことを願っております。



最後まで記事をお読みいただき、ありがとうございました。皆様から頂くサポートは、さらなる有益なコンテンツの作成に役立たせていきます。引き続き、石巻日日新聞社のコンテンツをお楽しみください。