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台所のセンスオブワンダー at あだむさんち 前編

大地と繋がっていたものが、私たちの一部となり、大地と私たちが繋がる。その過程を丁寧に味わう。
6月21日の夏至の日から3日間、長野市の山の上にある古民家のお宿「あだむさんち」でリトリートを開催しました。リトリート=Re treatment=日常から離れて心身をリセットする時間。今回、あだむさんちきコラボでリトリートを開催しようと声をかけていただいた瞬間から、台所のセンスオブワンダーをテーマにしようと決めていました。いつもよりずっと繊細な感覚で、食材に触れ、味わう。誰よりも私自身がそれを求めていたみたい。


【 Pre:DAY1】

憧れのバインミー

長野に住む友人とゆっくり過ごすため、そしてリトリート用の食材買い出しのため、前日の早朝に出発。3時間ほどのドライブを経て友人と合流し、延々とお喋りしながら道の駅巡り。長野のお米や調味料を購入しました。3日間のリトリートだけど、この地で暮らすように過ごして欲しい。その土地に馴染むには、その場所のものを食べるのが一番早いからね。
実はこの日、奇跡が起きたんです。友人が予約してくれたランチが、なんとインスタで食い入るようにみていた憧れのバインミーだったこと。とんでもない美味しさのヴィーガンバインミーに刺激をもらいました。全てのバランスが完璧だった。すごいものを食べてしまった。

アダムさんのパスタとパン

友人とまたねとハグした後は、細道山道迷い道しながらあだむさんちへ。アダムさんが用意してくれた夕飯を食べながら、リトリートの打ち合わせとたわいないおしゃべりをしていたらすっかり夜も更けていました。知り合いの農家さんに声をかけてくれて、期間中にいろんな野菜が届くんだって。ありがたいなぁ。新たな出会いが待ってるなんてワクワクが止まらない。みんなはどんなふうに料理するだろう。

【DAY1】

大吉にあやかります

5時に起きて善光寺へ。リトリートの安全祈願をして、おみくじを引いたら大吉が出ました!幸先がいい!
気分良くそのまま信州新町の道の駅へ。これまでは師匠のリトリートのアシスタントとして、毎回一緒に買い出しに来ていた場所です。見慣れた売り場をウロウロしながら、師匠が恋しくなって思わずLINEしてしまいました。「大きく料理したらいいよ」だって。小さくいい子にまとめようとせず、赴くまま大胆につくること。実はこれ、リトリート中の裏テーマでした。

最高のピザ!

午後。3日間を一緒に過ごす5名の方をお迎えしました。直前まで大ぶりだった雨も弱まって一安心。初回の食卓は、アースオーブンで焼くアダムさんのピザって決めていたんです。生地に触れる、具材を直感的に組み合わせる。皆さんのセンスオブワンダーがパッっと開く瞬間を、何度も目撃しました。力任せに伸ばしても思うようにはならない生地も、その収縮のリズムに呼吸を合わせればちゃんとまぁるくなること。アダムさんや他の人になんとなく合わせるのではなく、今自分が本当に食べたい具材を選ぶこと。そんな些細なことがすごく大切なんだと思います。普段はおざなりにしがちなことを無駄なくらい丁寧にする、それがこのリトリートの醍醐味です。

静寂と感動

食後はキャンプファイヤーを囲み、自己紹介の続きを。不思議なもので火を眺めながらの会話は、形式的じゃない本質的なやりとりになるんですよね。炎の前では嘘はつけない、そんなDNAを私たちは持っているのかもしれません。少しずつ馴染む心地よさを感じながら、夏至の満月探しへ。街頭のない暗闇の中、燦然と輝く満月をみたのはいつぶりだろう。月明かりに照らされるみんなの表情は感動と穏やかさに満ちていました。同じものを食べ、同じ月に思いを馳せる。奇跡みたいな時間でした。

【DAY2】

桑の実に夢中

なんとも清々しい晴天に恵まれた朝。2日目はお散歩からスタートです。アダムさんと2匹のわんこに率られて歩く道すがら、桑の実や梅の実、葛の新芽など、今この時期だけの恵みにはしゃぐ私たち。いたるところに桑の木があるのは、この地がかつて養蚕で栄えていた名残です。熟れた桑の実を夢中で収穫しては、「甘い〜」とはしゃぐ大人たちのなんと可愛らしいことよ。食への純粋な欲望の前に人はこんなにも無邪気になってしまうのか。

じゃがいも探索

散歩の後は畑へ。ラディッシュ、ルッコラ、サニーレタス、じゃがいも…と豊なあだむさんの畑で、大はしゃぎ。食べたいものを食べる分だけ収穫しました。「ルッコラの花美味しい!」「人参の花かわいい〜」なんてついつい声が出ちゃう。ふかふかの土の上を歩いて、手を突っ込んで泥だらけになって。大地と繋がりたくて勝手に身体が動いてしまう。収穫の喜びはひとしおだけど、畑にはそれ以上の何かが確実にある気がしています。誰もかも童心に戻してしまう力が土にはあるんだよね。

今ここにアルモンデ

宿に戻り、先ほど畑で収穫した野菜、陽子さんが朝届けてくれた地元農家さんの野菜、昨日道の駅で購入した野菜と食材をバーっとテーブルに並べてみました。さあここからが、私たちの台所の始まりです。2日目の昼、夜、3日目のブランチ。3回の食卓を、ここにアルモンデ、共に作り共に食べます。
まずは今一番気になる野菜を一つ選ぶところから。そして普段はその野菜をどんなふうに食べているのか話してもらいます。自分の当たり前が、誰かにとっては初めての食べ方だったりして大盛り上がり。いい感じだなーと内心大喜びしつつも、「いつもと違う食べ方をしてみませんか?」って提案してみました。いつものパターンや自分の癖で無意識に料理をしないこと。今この時のセンスオブワンダーをカタチにすること。誰かのためにではなく、自分と目の前の食材を活かす料理をすること。この3つが今回のリトリートの柱だったんです。

・今の気分はどんな感じ?さっぱり食べたい?こってり食べたい?
・生っぽく食べたい?しっかり火を入れたい?
・シンプルな塩味がいい?甘辛?それとも…?
・組み合わせたい食材はある?単品で作る?

自分で選んだ野菜をどう食べるか、今の自分に問いながら決めてもらいます。料理ってイメージがとっても大切で、イメージさえできればカタチになります。でも知らないことはイメージできない。美味しいを共有する会話もすごく大切です。でも日常は時間に追われてイメージなんてしてる暇ないし、食べることの話ばっかりなんてしてられない。リトリートは非日常だから、その大切なことにたっぷり時間をかけました。
そうして出来上がった食卓がこちら!

優しさ溢れる食卓

加工なしのこの写真。柔らかな光が差し込んだ、優しい色合いの食卓です。アルモンデ料理しているとね、食卓に表情があるんです。この時の場の空気感やみんなの人柄が、食卓に出るんです。もちろん野菜の表情も。見直すたびにホッとするような、帰りたくなるような優しさがある。これが初回の食卓だなんてね、すごい出会いです。(後編に続きます)

【この日のメニュー】
スープから左回りに
・ヒマラヤヒラタケとキャベツの味噌スープ(Kさん)
・とうもろこしとトマトご飯(Mさん)
・カリフラワーのソテー グミ醤油ソース(私)
・さやいんげんとなめこのスパイス炒め(みんな)
・パニプリ(まぁるいインドの揚げ物)
・ズッキーニと杏の和えもの ミント風味(Hさん)
・長芋のカシューナッツ揚げ(Nさん)
・茹でじゃが 豆乳マヨ(私)

<ヒマラヤヒラタケとキャベツの味噌スープ>
味噌汁が苦手な息子さんに味噌汁を飲んでもらいたいKさん。スープは好きなのに…というので、味噌汁と味噌スープの境目ぎりぎりを探る実験をしてみました。味噌を少しずつ加えてはみんなで味見をして、「大丈夫まだスープ」「もう少し入れたら味噌汁になっちゃうかも」とせめぎ合い続け出来た一品。初めましてのヒマラヤヒラタケは、最初にしっかり油で焼き付けて旨味をぐーんと引き出したから、出汁はなし。味噌汁=出汁が必要という思い込みも、味噌で味付けしたら味噌汁という概念もポーンと捨てた味噌スープ、美味しかったな。息子さんにも飲んでもらいたかったな。

<とうもろこしとトマトご飯>
とうもろこしごはんが大好きだというMさん。ならばいつもと違う作り方をしてみましょうと、とうもろこしもトマトも丸ごと入れて炊きました。炊き上がったらとうもろこしだけ取り出して、粒々にならないように、実が出来るだけ塊になるように芯から削ぎ落として、ご飯と混ぜるのが新たな試み。粒もいいけど塊を噛み締めることで満たされる「とうもろこし欲」があるんですよね。トマトの旨味が染み込んだご飯との相性も抜群でした。

<カリフラワーのソテー グミ醤油ソース>
農家さんから届いた季節外れの少し硬いカリフラワー。しっかり焼いて食べよう!って決まるのは早かったけど、味付けがなかなか決まらず。そんな時目に止まったのが、道の駅で購入したグミの実でした。カリフラワーをゆっくり蒸し焼きにしている間、煮崩した甘いグミを裏漉しして醤油と混ぜたらソースの完成!(Kさんのご尽力)ぎゅっと締まったカリフラワーの味わいと甘酸っぱいグミソースの奇跡的な出会い。ベリー系のジャムと醤油の相性っていいよね。言葉じゃ伝わらないけど、味わえばみんな納得です。

<さやいんげんとなめこのスパイス炒め>
なめこって、味噌汁以外の食べ方したことないかも。誰かがそう言ったので、今日はなめこ炒め記念日。育ち過ぎた大きなさやいんげんが相棒です。いつもと違うことをたくさんしてみようと、スパイシーな味付けにしてみました。火の通りにくい順番に一つずつ炒めること、炒め始めたら火が通るまでできる限り動かさないこと。コツはこれだけ。なめこの粘りがとろりとからんださやいんげん、最高でした。

<パニプリ>
私の大好きなインドのスナックをみんなにも食べて欲しくて。平たい生地がボウルになる時の可愛らしさに、みんなでキャーキャーできたからそれだけで大満足。もちろん美味しいんですよ。

<ズッキーニと杏の和えものミント風味>
ズッキーニを生でさっぱり食べたいというのがスタート地点。そこから何と合わせるか、どう味付けしたいか、ご自身と相談してMさんが作り上げた一品。杏の甘酸っぱさとズッキーニの優しい甘み、ミントの爽快感のバランスが良くて、どんぶりいっぱい食べたかったくらい。

<長芋のカシューナッツ揚げ>
すりおろしたりサラダにしたり。生で食べることの多い長芋だから、今回は揚げよう!普段のパン粉は使いたくないから、ナッツを砕こう!サクサク決まったこちらの一品。溶いた小麦粉にさっき収穫したフェンネルの葉も入れて、爽やかな揚げ物に仕上がりました!Nさんは料理のプロ。さすがです。

<茹でじゃが 豆乳マヨ>
さっき掘ったばかりのじゃがいもはシンプルに食べたいね。ひとまず茹でようか。定番はじゃがバターだけど、バターはないもんね。そんな会話をしながら、バターはないけど豆乳でマヨネーズは作れるよって何気なくつぶやいたら、豆乳でマヨネーズが作れるの!?知りたい知りたい!と大盛り上がり。で、作りました。ヴィーガン料理のでは定番の豆乳マヨですが、ヴィーガンでない人にとっても美味しい。美味しいの本質ですね。レシピを生み出した方、ありがとうございます。おかげでみんなに喜んでいただくことができました!

実は2日目の朝散歩中、参加者のお身内に不幸があり、お一人先に山を降りることとなりました。2人きりで宿に戻る道中、「望んだ通りに命を終えた身内を誇りに思う」と話してくださったMさん。どう生きるのかもどう死ぬのかも自分で選ぶことができるのだと、伝えにきてくれたみたい。そう思わずにはいられない出来事でした。
出会いとタイミングの妙。全てに意味があるとは思わないけれど、意味のないものもないんですよね。Mさんにはきっとまたすぐ会えるような気がしています。


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