【所在地-わたし-】王法と仏法/生命に原型はない。

私という空間には、かねてよりある男が居る。 
彼は名を「****」と言う。彼はある女から生まれた。融合とはよく連鎖するもので、彼も常々ふさわしい相手を探している。

気が付けばいつもある女といるが、部屋で一人の時は何か書いたり読んだりと忙しくしていて、つまらないほどに文化的だ。
彼は日に二三度飯を食う。そうしないと寒くなってたまらないらしい。彼はよく頭を使うから燃費が悪いようだ。それゆえ生きる上で大きな失敗こそ少ないが、そこまで案ぜずとも何とかなるだろうに、もっと気楽に生きればいいのにと思う。

以前彼はよく暇していた。その頃は私も詰まらないから彼を疎ましく思っていた。彼は私が暇をしているのに気が付くと、別に求めてないのにぽつぽつといろいろな事を聞かせてくれた。それは処世訓であったり、恋愛のすばらしさであったり、人としてのあり方から、世界の構造や物事の成り立ちまでさまざまだ。私に直接関係のない事柄でも納得させられると確かに面白かった。この暇の良さがわからない時分は彼に退屈して私を早く手放してほしいとよく思ったものだが、最近はもう少し一緒にいてやってもいいような気でいる。

私は私がどのようにして生まれたのか知らない。世界の一部分として存在し、気づいたら彼と一緒にいた。初め、私も彼もこの世界について何も知らなかった。私はそれを知る必要すらないと思っていた。実際にあるものがここにあるという事実、それだけで十分だった。しかし彼は違った。彼は置かれた環境に順応し、言語を習得し、人々や自然とよく和合して分析し、折に触れていろいろな解釈を私に教えてくれた。そうしていくうちに教わってばかりでは気が揉んで私も彼に何か教えたくなった。
しかし私は、彼の話を聞く一方で何もしてやれなかった。というのも、私は彼が見聞きし感じる以上のものを知ることができないからだ。私には彼の入れ物-空間-としての機能以外は備わっていなようで、彼が何を欲しているのか、また彼が何に興味があるのかよくわからなかった。
だから私はせめてもの想いで、彼の話をよく聞いてやることにした。すると彼は以前に増していろいろな事を考え一層楽しそうに話してくれるようになった。

彼の居場所が彼にとって居心地の良い場所になるようと常々ただ祈う。


生命に原型はない。ひとつとして同じものはなく、
美醜に原型はない。ひとつとして完璧なものはなく、
その象徴は移り変わる。ひとつとして独立なものはない。

2020/3/18

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