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始まれがあれば終わりもある

もう数年前のこと、美容室 La u La 自由が丘 が30年以上の営業を終えた。
思えば私が駆け出しの頃に通っていたこの美容室で、この店主が私が藝大の大学院生だと知るとサインオブジェを依頼してくれて、その後も店外内のものをいろいろとやらせていただいたお店である。

そのサインオブジェが商店建築誌に取材されたり、この仕事をきっかけに別のお仕事をいただいたこともあり、お世話になった思い出の店である。
今でもこの店のアンモナイト作品は話題になることもあるし・・・

さて閉店の日のこと
お知らせをもらっていたので、営業最終日の閉店時間の1時間前に駆けつけることが出来た。
店主と思い出話しをしようと思ったのだが、閉店を惜しむ常連さんが次々訪れた。
私は店主とゆっくり話がしたかったので、お客さんが終わるのを待つことにして、気配を消して自分の作品の撮影したり、当時のことを思い出しながらしみじみしていた。
もちろん常連さん達も閉店を惜しみ、お土産を渡したり、連絡先を交換したり、握手したり・・・とても微笑ましい人間模様が眼前で展開されて、このような人生のターニングポイントに居合わせることはなかなか出来ない・・・と感じた。

そして、最後のお客さんが終わったのが閉店時間をすでに2時間半過ぎた、22時半ころ。

「お疲れ様でした」と店主に声をかけた。

「疲れたー、こんな忙しいのは久しぶりだ・・」と店主は言いながら静かにハサミやくしなどが入った腰ベルトを下した。

とにかくご飯でも食べることにしてファミレスで食事を済ませると、名残惜しくまた店に戻った。
もう深夜12時半頃だったか・・・なかなか言い出せなかったことを言ってみた。

「もう閉店したし疲れたと思うけど、実は最後の客として来たんだけど・・・」と。

「やろう!切ろう!」と、店主は腰ベルトを装着した。

カットを始めた店主が
「ホントはね、私から切らせて と言いたかったんだけど・・それは店側からは言えなかった」
と、話し始めたが、その後はごく普通の営業トークをして鏡越しにスタイルの話をして・・・今までと全く変わらないカットが進み、いつものように終了した。

最後の客として身構えていた私だったが、事は淡々と進んだ。
そのルーティンワークは、修行時代も含め40年ほどのキャリアから来るのだろう。
そして店主は、
「どうかな?」と三面鏡を後頭部から正面の鏡に映し、私を見た。

「はい!ありがとうございます」と言って、ホントに終わった。
レジを済ませ、無事に最後の客としての大役を終えた記録。


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