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フィンランドの教育力

今年ももう2ヶ月が過ぎ、初心に帰って早寝早起きを心がけるこの頃は、寝る前はスマホから離れ源氏物語を読み、朝は30分かけてラジオを聴きながら学校まで森の中を歩く理想的な生活をしている。そのせいもあってか読書が捗りフィンランド語の勉強と並行して何冊か読んでいるのだが、今日の物理の授業があまりにつまらなくて買ってしまった本が今読み終わったのでフィードバックする。

この本は、フィンランド人教師のリッカ・パフカラへのインタビューを書籍化したものだ。馬のトレーナーになりたかったリッカだが、大学入試に失敗し仕事を求めて職業案内所に相談すると特別支援学校のアシスタントを紹介されそこで1年間働くことになった。それがきっかけでその後トゥルク大学の教育学部で小学校の教師になるために勉強し、ヘルシンキで10年に渡り教師として3つの小学校に務める。その後夫の転勤に伴って8歳の息子と4歳の娘を連れて来日。

僕もこの本の存在は知っていたが、もう10年以上前に出た本で、PISAの結果で話題になったフィンランドの教育についてメディアから出たいろんな文章の一つに過ぎないと考えて読んでいなかった。フィンランドの教育に興味があり読んだことのある人も多いだろうが、案の定その通りであり内容自体は彼女の自伝と教育に対する自論でありこのタイトル及び副題と合っているかと言えばそうとは言い難い。しかし、近いうちにフィンランドの小学校を訪問する予定なので、フィンランドの小学校について情報収集の一貫として読んでみるに、考えることもそれなりにあった。

僕のホストファミリーは今3人が地元の小学校に通っていて、小学校の行事にも家族の一人として足を運ぶ機会をいただき、幸運にもフィンランドの小学校の事情には家族の視点から精通している。どんな宿題をしているのか、家族は学校とどう関わるのか、秋休みも冬休みも宿題はないとかこの本に教師の視点として書かれていたことを実際に確認しているが、当然それは教師及び親次第であり、10年以上前のこの本に書かれていることとすべてが一致するわけではない。その中でもこの本に最も共感を抱いたのは、フィンランドに於ける「ソーシャルワーカー」の役割の重大さである。

ソーシャルワーカーとは日本でいうところの社会福祉士や精神保険福祉士の資格に類似するが、その仕事の幅は大変広く、学校に於ける子供の精神的サポートを教師や親とともに行うことから、ホームレス、失業者、社会のあらゆるところで不安を抱えながら生活に困っている人々を精神的にサポートしたり、その人の家族・人間関係・環境からにアプローチしながら援助を提供している。フィンランドでソーシャルワーカーの資格を取るためには、応用科学大学(university of applied science)で大学の修士号レベルの学位を取る必要があり、社会からの信頼も厚い。例えば学校で問題を頻繁に起こす子がいたとして、その子の家へ教師が訪れて家族と話すためには、学校のソーシャルワーカーが同伴としていないといけないそうだ。実は、ホストマザーがソーシャルワーカーで、資格保持のために先日も研修へ行っていた。いろいろな顧客を相手にしてきた話を聞いてきたが、直近の話では、仕事を失い家に引きこもって精神的にまいってしまいもう何日も食事を取れていないある男性を訪れ、まずは無理矢理にでも食べ物を口に入れさせそれから家族とともにこれからどうしていけるか話し合ったそうだ。トルコ、ギリシャの移民のニュースはヨーロパでも大きく報道され各国の懸念するところであるが、そういった人々に対しても、フィンランドでもソーシャルワーカーの需要は今後いっそう高まることが予想される。

ソーシャルワーカーをはじめとし、フィンランドの学校では、子供の精神的問題を教師だけに負わせずしっかり周りが協力してサポートする体制が整っている。その好例がネウヴォラ(neuvola)である。ネウヴォラとはフィンランド語で「助言の場所」という意味で、主に子供の精神的問題を家族や学校と協力してサポートする施設である。ホストブラザーの例を紹介させていただく。彼は数年前に算数に大変苦労していて、ある日何をやっても分からなくなってしまい、宿題をやるにも何もできなく泣き出してしまうような状況が続いた。教師の提案で家族はネウヴォラに相談することにし、そこで心理学者の助言を受け、できる問題だけを本人のやれる分だけ無理せずやり、周りはそっと見守るようにしたそうだ。簡単な助言に聞こえるが、これを機にスッと精神的に落ち着いて現在ではクラストップの成績をとるようになっている。

リッカ・パフカラがフィンランドの教育に今一番必要なのはソーシャルワーカーのいっそうの充実だというが、グローバル化、多様性の時代に様々の子供達を受け入れサポートする制度がここまで整っていることはフィンランドの教育力の一つと言えるのだろう。英語教育、プログラミング教育と先進国の真似をして欲張る日本がフィンランドの教育制度から学べることの一つだと思う。ただ、やはりフィンランドと日本では教育の背景にある文化と歴史が悉く異なる。ここから先の考察は、別の本のレビューとともに述べることを試みる。



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