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空間把握

高校留学の時に日本からのお土産でけん玉を持ってきた。これが意外と評判が良かったのでまた持ってきた。

もちろんフィンランドにけん玉なんてなく、初めての人にやらせるとなかなか盛り上がる。でも、これは経験的な印象であるが、フィンランド人はけん玉の習得が早いような気がずっとしている。これは、数学と空間把握の関係につながるものである。

近年の研究で、空間的思考と数学的思考には共通した認知処理が働いていることが指摘されている。その説明として、例えば数学の文章問題を解くとき、数学的論理関係や与えられた条件を頭の中で「可視化」する能力は、まさに空間的思考、すなわち空間把握の能力につながるという。これを利用し、パズルやブロックといった実際に形のあるものを使って空間的思考のトレーニングをすると、数学の成績が向上したという研究もある。

小さい頃から森の中を駆け回って育ったフィンランド人が、けん玉を軽々と覚えるそのバランス感覚も、納得のいくものではないだろうか。

思えば、ユークリッドにしてもオイラーにしても、人間の想像力およびそのビジュアル化は古代ギリシャ以来常に数学の発展と共にあった。数学ができる子を育てたいなら、早期教育よりも、森に野放しにしておいた方がいいのではないか。

岡本太郎が、縄文土器と弥生土器を比較して、縄文土器に際立って特徴的な三次元的表現は、縄文人が山や森を駆け回って狩をしていたことによる空間把握能力の賜物ではないかと言っていたのを思い出す。

フィンランドの話に戻る。ヘルシンキに来てまだ数ヶ月と経たない頃、家からヘルシンキ中央駅までの道のりを2時間くらいかけて歩いてみた。普段バスや電車でスマホを見ながら移動してしまう道を自分の足で歩いてみるというのは非常に大切なことだ。ヘルシンキという街の大きさ、地図ではわからない標高の感覚、こういったものを身体で覚えることができる。

縄文人も江戸時代の人も、自分の足で日本列島を把握していた。正確な地図がいつでもどこでも見ることができるようになったのはつい最近のことである。この夏、自分の足でフィンランドを踏みしめたい。


参考文献

Hawes, Z. C. K., Gilligan-Lee, K. A., & Mix, K. S. (2022). Effects of spatial training on mathematics performance: A meta-analysis. Developmental Psychology, 58(1), 112-137.
https://doi.apa.org/fulltext/2022-25661-002.html

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