見出し画像

あかつきを巡る戦いが始まる

桃の生産量1位で有名なのは山梨県だが、実は全国2位は福島県である。
その福島県を代表する桃の主力品種、名を「あかつき」という。

近年、県をあげての宣伝活動を行なっているので耳にしたことがある方もおられるかもしれない。この季節になるとJRの自動販売機に100%果汁のジュースとなって鎮座していることもある。

「白桃」と「白鳳」を掛け合わせて生まれた「あかつき」は、しっかりとした歯応えがありながらも噛めば溢れんばかりの果汁が口いっぱいに広がるのが特徴的だ。
また福島県ではほぼ袋を掛けず日光を浴びて育てるため、桃の皮は鮮やかなピンク色をしている。THE桃という風情がたまらない。この薄皮を剥いた途端にジュースのように果汁が滴り、芳醇な香りが漂い鼻をくすぐる。切り終えたあともしばらくは指先から桃の甘い香りがするほどだ。
「あかつき」は柔らかすぎることもなく、ガリガリと硬すぎる訳でもない。長時間の輸送に耐えうる贈答品向きの品種であり、県民の自宅消費量がおそらく最も多い桃でもある。

福島県民は、「あかつき」をこよなく愛している。
物心ついた時から「あかつき」を食べていたので、大人になるまで他の品種があることを知らない人もいるだろう。私がそうだった。
そしていろんな種類の桃を試しても、新しい品種が出てきても、最終的に「あかつき」に戻る人も多い。

JA産直所の店頭に桃が並ぶ時季になると、桃の売り場に人が群がる。
幾重にも並んだ人々がゆらゆらと頭を揺らして積まれた箱に書かれた品種を覗き込んでは「ちがう」「まだあかつきじゃない」と囁きながら、ある人は去り、ある人は箱を抱えてレジへ向かう。そして桃箱がなくなると静かに去っていく。怪異か。

そしてこの光景は、「はつひめ」「ふくあかり」「暁星」等が店頭に並ぶたびに繰り返される。旬の桃を今すぐ食べたい人もいれば、今年最初に食べる桃は「あかつき」に決めている人もいる。こだわりが強いのだ。

なので、「あかつき」が店頭に並び始めるとどうなるか。

戦いである。

最盛期には産直所が開く1時間近く前から粛々と列を成す。
そして店が開くと同時にカートを掴んで店内に突入し、目当ての果樹農家の「あかつき」の箱を積んでレジに並ぶ。購入から発送に至るまで、去年は2時間以上かかった(今年はオペレーションが改善されていることを祈る)。

どうかしてると思うだろう。まったくだ。私たちはどうかしている。
それほどまでに「あかつき」に魅せられているのだ。

明日も朝から産直所に行かねばなるまい。
「あかつき」を愛し「あかつき」の良さを伝えるのが、この時季の私の最大の使命なのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?