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南天

実家と母方の祖父母の家は車で二時間ぐらい離れていて、
私が二人の家を訪れるのは、主に冬休みや夏休みなんかの長期休暇だった。

庭にはたくさんの木や季節ごとの植物が植わっていた。
春休みはチューリップが綺麗に咲いていたし、夏休みはもぎたての青い味のトマトを(スーパーの甘いトマトも大好きだけど、このヘタのまわりの瑞々しい青さはどんなに甘いトマトにも代えられない)、冬休みには金柑をもぎって食べるのが楽しみだった。

お庭を歩きながら、祖父はよく「これはなぁ、マリーゴールドっちゅうんやに」「これはなぁ、月下美人っちゅうんやに」と、ひとつひとつ教えてくれた。ふんふんと聞き流していたら、たまに「これは?覚えとるか?」とクイズを出されたりして、ちょっと困るなぁ、なんて思っていたこともある。
今思えば、あまり口数の多くない祖父が、これまた人見知りな私とコミュニケーションを取ろうとしてくれていたんだなぁと、あたたかい気持ちになる。

そんなこんなで、冬休みの帰省時には南天を指して、「これはなぁ、南天っちゅうんやに。難を転じて福となすっちゅーてな。」と教えてくれた。植物にはあまり興味のない私だったけれど、南天は実が赤くてかわいいなぁ、食べられたらいいのになんて思いながら、楽しく聞いていたのを覚えている。

南天の木は洗濯物干し場に近いところに植わっていたから、祖母の洗濯干しを手伝っているとき、祖母も同じ話をしてくれた。きっとあの木は、二人にとって思い入れのある木だったのではないかと思う。

この季節になって、南天の赤い実を見ると、決まってあのお庭の南天が思い浮かぶ。そして、ふわっと懐かしい気持ちになるのである。


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