N/A 年森瑛 読書感想文
人間は何かに属することで安心する。自分や他人を分類分けすることで、自分に似た人間を認識して、仲間意識を持つ。僕たち仲間だから、気持ちが分かるから、一緒だから。それが例え小さな枠組みでも、その輪の中にいることでそれだけで安心を覚える。だから本当はどこにも属さないのに、わたしはわたしでしかないのに、世界の中で何かに属そうとする。
高校を卒業した後に浪人をした。何にも属さずに未来だけに期待して努力をした時期だった。世間からは「親からお金を出して貰えて恵まれた人間」として見られた。ただその眼差しはとてもいいようには思えなかった。応援してくれているのは世間ではなく、自分の子供が困らないように、良い大学に進学して欲しいという親だけだった。自慢の息子になるべく、将来困らない人間になるべく、ただそういった状態で世界の中で浮遊していた。孤独だった。
この頃のどこにも属さない時期があったからこそ、マイノリティの人々へ寄り添いたい人間でありたかった。社会に出て、たくさんのマイノリティの存在を知った。僕はマイノリティの人の気持ちを想像できる人間なんだと信じておきながら、そういった人間が側に現れて離れた過去があった。
自分が何に属するのか分からないこの小説の主人公まどかは、ただただかけがえのない他人の存在を求めていた。ただまどかにだけに向けられた言葉を欲していた。同時に自分が他人に、ありふれた言葉ではなくて、その人にだけに向けられた言葉を送ろうとしていた。それは簡単ではなくて、他人に向けられた自分の思いが含まれた言葉は関係が崩れてしまう可能性があった。人は特別な言葉を求めておきながら、それを発するのをこわがった。
何かに属した人間への言葉ではなく、個人に向けられた言葉を求めている。そしてそういった言葉が人を離す可能性も秘めている。何かに属したい人々。何にも属さない私たち。
人と言葉の重みにストレートに叩きつけられた一冊だった。
今まで読んだ小説の中で一番好きな小説だった。
こんな小説が書きたいんだと思った。
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