気づけなかった。

「学校に行きたくない」
私の弟はそう言った。

理由を聞いてみてもただ、
「なんとなく嫌だ」
と言うばかりだった。

それでは休ませることもできず両親は、
そのまま通わせていた。

ある日弟は
「ねぇ、お姉ちゃん」
「僕が死んじゃったらお姉ちゃん悲しい?」

と聞いてきた。

私は
「悲しいよ、当たり前でしょ!」
「大切な家族なんだから!」

と返した。

この言葉に嘘はなかった。
その後弟はなにも言わなかった。

どうしてそんなことを聞いてきたのか、
私には全くわからない。

理由を考えてみたが見つからない。

家庭的な問題?
いや、一般的だ。
普通にご飯が食べられるし、
愛情だってたくさんもらっている。

友達?
いや、仲のいい友達が遊びに来ることもあった。
すごく笑顔でとても作り笑いには見えなかった。

わからない。

そんなことを一人で考えていても
仕方がないので母に聞いてみた。

そうすると
「ただ行きたくないだけよ」
「この年頃になると無性に行きたくなくなるの」
「わがままいってるだけ」

と言われた。

死ぬ話をされたのに
そんなに軽くていいのかと少し思ったが、
確かに私もこの時期は
行きたくないと思っていた気がする。

だから、考えるのはやめた。

そんなことがあってから1ヶ月後。
弟は突然この世を去った。
部屋で首をつってのジサツだった。

私たちはとても悲しんで涙をながした。

弟がいつも使っている学習机の上には

「僕を産んでくれて育ててくれてありがとう」
「こんなことしてごめんなさい」
「僕は幸せでした」
「誰のせいでもないので誰も責めないで」
「ちょっと疲れちゃっただけなんだ」
「たくさん迷惑かけてごめんなさい」
「みんな大好きです」

と、乱雑な文字で描かれていた。
最期の力を振り絞ったのだろう。

どうしてあの日軽いと思ってしまったのだろう。
もっと詳しく話を聞くべきだった。
どんな小さいことでも目を配っていればよかった。
受け流すんじゃなかった。
私の方が謝らなきゃいけない。

ごめんなさい。

ごめんなさい。

ごめんなさい。

後悔ばかり募る。

気づくと眩しい光が私を照らしていた。

「もう、朝か」

心にはしばらく朝は来なさそうだよ。

私が今思うことはふたつ。



私の弟でいてくれてありがとう。
そっちの世界ではもっと幸せに暮らせますように。

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