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顔が見える仕事で、地域に温度を生む【前編】

若狭湾に面する福井県小浜市は、古くから「御食国(みけつくに)」として都の食文化を支えてきた地。京都まで海の幸を運ぶ「鯖街道」起点のまちでもあります。

関東出身の堀越一孝さん(以下、一孝さん)とほしこしみきさん(以下、みきさん)は、2019年3月に家族で小浜へ移り住みました。若狭塗箸の老舗メーカーで働きながら、デザインや写真、イラストを通じて小浜のさまざまな人たちにスポットライトを当てています。

福井で暮らす前はさまざまな地域でくらしていたふたり。前編では地域の暮らしに興味を向けるようになったきっかけを伺っていきます。

堀越一孝さん
神奈川県出身。小浜の伝統産業である塗箸の老舗「株式会社マツ勘」で商品企画や広報を行いながら、デザイン事務所UMIHICOの代表を務める。 フォトグラファーとしても活動し、写真でまちを元気にする新しい写真の方法『ローカルフォト』を核としたプロジェクトを各地で行っている。

ほりこしみきさん
埼玉県出身。幼少期より、日本画家であった祖父のそばで絵に親しみ、学生時代より水彩連盟展をはじめ全国の公募展等で数々の賞を受賞。2015年にデザイン事務所UMIHICOを設立し、表紙絵やイラスト、ロゴマーク、パッケージなどのデザインやアートディレクションを務める。

3.11を機に見つめ直したこれまでの仕事

大学でエネルギー工学を専攻していた一孝さん。
妻のみきさんと横浜に住み、
エネルギー関連の仕事をしていました。
ところが3.11をきっかけに
これまでの仕事の価値観が大きく揺らぎます。

一孝さん:大学を出てエネルギー関連施設のエンジニアを10年弱手がけていました。ところが3.11が起こり、これまで学んできたことや誇りを持って続けていた仕事の価値観がひっくり返ってしまったんです。この先同じ仕事を続けていけるのか非常に迷いました。

みきさん:私たちの想定を常に超えてくる自然の脅威にはどうすることもできないなという無力感がありました。100%安全な方法なんて頭のいい人にもわからない。そういう環境で働くのは、彼にとってすごく辛いことだろうなと思いました。

一孝さん:ちょうどその頃、「コミュニティデザイン」という言葉を聞くようになりました。関連する本を読み、その言葉を提唱したstudio-Lというデザイン会社で週末インターンをさせてもらったんです。今まで都市部にしか住んだことがなかったので地方や地域について考えたことはなかったし、インターン中に撮影や取材をさせてもらった経験がとても新鮮でした。

ずっとサラリーマンの働き方しかしてこなかったけど、会社をやめてもできることがあるかもしれない。地方に惹かれていく気持ちを奥さんに話したところ、背中をポンと押してくれました。

堀越一孝さん(左)と妻のみきさん(右)

「地域に飛び込んでみたい」堀越家の一念発起

その後、会社を退職した堀越さん。
横浜を離れやってきたのは、
長崎県東彼杵町(ひがしそのぎちょう)。
人口8000人ほどの小さな村で
2014年から地域おこし協力隊として活動します。

そこで一孝さんが目指したのは、
写真を通じたまちづくり事業でした。

一孝さん:カメラマンのMOTOKOさんという方が、写真で地域を元気にする「ローカルフォト」という活動をしていて、東彼杵町でも同じことができるかもしれないと思ったんです。インターンの時に経験した取材や趣味だった写真撮影を活かして、写真の力で地域を元気にするというローカルフォトの世界を事業化できないかと思い、地域おこし協力隊任期中に「写真によるまちづくりプロジェクト」を立ち上げました。

みきさん:長崎に来たのは、知り合いがいなかったから。誰の力にも頼らない場所に行きたいと思っていました。ただ、地域おこし協力隊だけで家族4人を養うのはなかなか難しくて。

一孝さん:そんな時に、東彼杵町にある「千綿(ちわた)駅」という無人駅で何かできないかと思ったんです。すごくポテンシャルのある場所なのに、使われていないのがもったいなくて…。その場所を活用しようと、地元のデザイナーとともにカフェとデザイン事務所「UMIHICO(うみひこ)」を立ち上げました。

みきさん:地域おこし協力隊の任期は3年間なので、必死に頑張れば新しい景色が見れるかもしれない。それまでがむしゃらに生きたことがなかったのですが、スピード感を持って何でもかたちにしていくことを意識していました。トライアンドエラーの繰り返しで実力をつけた濃密な3年間でしたね。

活動の2年後にはアイドルグループが撮影で訪れるなど、全国的に知られるようになった千綿駅。各地から女性ファンや撮り鉄がひっきりなしに訪れるようになった(UMIHICOのnoteより)

3年間の任期を終えた一孝さんは、
建築設計事務所に就職し、拠点を兵庫県へ。
そこで福井県小浜市に関わる仕事を担当し、
福井に通う日々が始まります。

後編へ続く

UMIHICO
https://umihico.net/

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