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『モラルの起源』

『モラルの起源』角田達也(岩波新書、2017)

人は、抜け駆けやズルを見たとき、許せないという憤りの感情、不公平感、懲罰感情がわくのは普通の反応です。それが、集団のモラルや規律の土台になり、不平等や抜け駆けを抑制し、ひいては社会を存続させる力になるというのです。

一人一人が損得を見極めて行動するよりも、(一見合理的でないように見える)自然にわいてくる感情に基づいて行動する方が、集団を維持していくのに理にかなっているというあたりは、へえ〜と思いました。

しかし、それらが有効なのは一定の同種的範囲の社会、部族などの集団内に限られ、他の集団では通用しません。確かに集団が変われば、常識やモラルは通用しないでしょうし、それが集団間の対立要因になるでしょう。

そこで、複数の集団が共存していくために必要なことは、それら集団を超越する、公平で合理的な判断(客観的な基準)を基礎にして、かつ、深い実用主義で解決にあたることが必要だと指摘しています。

例えばこういうことではないかと思います。

他国(民族)の常識やモラル、思考方法を理解しようとする努力は、平和共存に確かに必要と思われる。しかし、完全に相互理解したり、複数の民族が同じ規範で完全に一致をみるように追求する事は、実は労多くして功が少ないといえる。
むしろその違いを脇に置いて、別の合理的な基準(誰もが納得する基準、例えば国連決議とか、国際条約)を示しつつ、さらに当該関係国が実利的にも納得できる妥協的な案をも提示して議論のテーブルにつき、粘り強く意見交換をすすめていく姿勢が必要だろう。

数百万年(ホモサピエンスでも2〜30万年?)の長い時間を経て、社会的動物となったヒトには、進化の過程で備わった「感情」発露の様式があり、それは社会の存続と深く結びついた合理的なものなのだと思います。

ということで、なかなか面白い本でした。

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