薄霧の中で #05 初対面
永遠にも感じた産声が聞こえるまでの数十秒。
今思い出しても鳥肌が立つ。ほんとに無事に生まれてきてくれてよかった。
医師の話だと、産道を下りてくるのが早すぎて赤ちゃんの準備が整っていなかったとのこと。
早すぎても赤ちゃんにとっては負担があるとは知らなかった。
半日は呼吸管理で保育器に入るとのこと。
まだ赤ちゃんと対面できないとわかり、すぐに主人に会いに行く。
「パパ、ぷうちゃん無事に生まれてきたよ。
パパ会いたいでしょ?抱っこするの楽しみにしてたでしょ?
ほら、目を覚まして。」
全く反応はない。当初の見立てでは今日あたり退院できるはずだったのに。
大丈夫なのだろうか。薬が効かないのか。
不安になる。
反応がない主人にかける声は、私自身にすら白々しく聞こえる。誰も気に留めてないとわかってはいるが、仕切りカーテンのすぐ隣にいるだろう誰かを意識してしまう。
手を握ったり、足をさすったりしてみるも、それもすぐに手持ち無沙汰になり、
「またくるね」と自分の病室に戻る。
さっきまでいた病棟と異なり、産科病棟は明るい。
照明の照度を変えているはずはないが、夕暮れ時の部屋の中と、真っ昼間の太陽の下くらいの差を感じる。
今の私には産科病棟が目が眩むほどまぶしい。
新生児室に行くと、昨日まで私のお腹の中にいたぷぅちゃんが保育器の中で待っていた。
午後には保育器から出られると聞いて、ほっとする。
看護師さんが声をかけてくれた。
「赤ちゃんは順調だし、午後、赤ちゃんも一緒にパパに会いに行きますか?」
いいんですか?!お願いします!!
即答した。
あんなに楽しみにしていた我が子の誕生。
上二人の出産は立ち会い、今回も当たり前のように誕生の瞬間を一緒に喜べると思ってた。
主人は会いたいと思ってるに違いない。
でもどうやって会いに行くのだろう。
他の病棟に新生児が行ってもいいのだろうか。
と思っていると、保育器に寝かせた状態の我が子と一緒に、看護師さんが迎えに来てくれた。
なるほど、移動式無菌室!
主人の病棟と連携を取って、向こうでもスペースを開けたりと準備してくれていた。
ゴロゴロゴロ〜と保育器を主人のベッドの横に近づけ、
「パパ見える?ぷぅちゃんと会いに来たよ〜」
だめだ、私の声には反応なし。
主人の顔の位置を変えたり、話しかけたり、周りはあーだこーだと試行錯誤。
ぷぅちゃんはスヤスヤよく眠ってる。
看護師さんが、手をつないでみます?と保育器に主人の手を入れてくれる。
主人の指が手元にいくと、ぷぅちゃんの小さな手が、主人の小指をしっかりと握る。
「パパ、手つないでるね」と顔を見ると、主人は目を開けていた。
「パパ、わかる?ぷぅちゃん生まれたよ!今、パパと手をつないでるよ!」思わず声が上ずる。
ゆっくりと、瞬きをして、また目を閉じる。
きっと、伝わっている。
きっと
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