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溺れる読書案内〜契約書本と会社法関係本〜

1 はじめに

ahowota様「法務パーソンがラブライブ!スーパースター!!を観るべき10の理由」から、裏法務系 Advent Calendarバトン(#裏legalAC)を引継ぎました、どうしても「はじめに」をつけたくなる、菱田と申します。

「法務系 Advent Calendarって何?」という方は下記を参照ください。
 表面 : https://adventar.org/calendars/6159
 裏面 : https://adventar.org/calendars/6281

僕が弁護士登録をしたのは2013年12年13日のことで、今日でちょうど丸8年です。そして、ちょうど裏LegalACの12月13日枠が空いていたので、エントリーしました。
丸8年のうち、①最初の4年を町弁業務を中心として、②現在までの4年を企業法務(特にIT)を中心として執務してきました。両者はそれぞれ得がたい経験だったので、その「比較」や「まとめ」を書こうと思いました。

が、

そうそう上手くは書けません。
何らかの金言は他日を期したい(4年後くらい?)、と思います。

そこで、今日は忖度なしで、よく使っている/座右にはないが困ったらまず読む法律書のご紹介をしたい(お茶を濁したい…)と思います!
結論から申し上げると「ド定番」ばかりです。

2 契約書関係

(1)鉄板 : 阿部・井窪・片山法律事務所編「契約書作成の実務と書式 第2版」(2019年、有斐閣)

説明不要。ド定番。
この本を基本にしつつ、たとえば、より固い条項を求めるのでしたら、日本公証人連合会「証書の作成と文例」シリーズなどを参考にすることもあります。


(2)鉄板 : 伊藤雅浩・久礼美紀子・高瀬亜富著「ITビジネスの契約実務〔第2版〕」(2021年、商事法務)

やはり説明不要。
目次にある「ITビジネスの商流と契約」「ソフトウェア開発委託契約」「ソフトウェアライセンス契約」「システム保守委託契約」「クラウドサービス利用契約」「販売店契約・代理店契約」「データ提供契約」のどれか一つでもビビッときたら購入をおすすめいたします。

本書から「モデル契約書」「AI・データの利用に関する 契約ガイドライン」「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書」等の公的な契約書ひな形の解説や、各種IT/データ関係の契約書本に当たるとリサーチがはかどります。

(3)入門書 : 淵邊善彦「契約書の見方・つくり方〈第2版〉」(2017年、日経文庫)

契約書やチェック方法の基礎的な説明をしている本です。契約書のチェックリストもついています。コラムには、たとえば「2つのバックデート」のテーマで①署名日をxxxx年1月1日と過去に遡るのがよいか、②署名日を現在の日付けとしながら「本契約はxxxx年1月1日に遡って効力を生じる」とするのがよいか、など分厚い類書にも載っていない問題意識が記載されていたりして、個人的にはおすすめです。

そして、甲乙つけがたい、鉄板の入門書?として、森本大介ほか著「秘密保持契約の実務[第2版](2019年、中央経済社)も推します。NDAはチェックの機会が多いですし、この1冊で、限定提供データ等の不正競争防止法も学べて、英文契約書も学べるお得な本だと思います。



3 会社法関係(全体構造)

会社法については、区分するとかなり細かくなります。
特に、昨年末〜今年は、株主間契約の書籍の「当たり年」でした。
宍戸善一ほか編「スタートアップ投資契約」(2020年、商事法務)
田中亘ほか編「会社・株主間契約の理論と実務」(2021年、有斐閣)
藤原総一郎(長島・大野・友常)編「株主間契約・合弁契約の実務」(2021年、中央経済社)
が各出版されました。

また、紹介するという行為自体が不要なシリーズ(商事法務コンメンタール、ハンドブック、東京八丁堀法律事務所編「(改定予定らしい?)会社法実務スケジュール」「実務解説中小企業の株主総会」など)があります。
今回は、会社法の全体についての書籍を記載します。

(1)定番 : 江頭憲治郎「株式会社法<第8版>」(2021年、有斐閣)と田中亘「会社法<第三版>」(2021年、東京大学出版会)

記載することすら恐縮してしまう定番。
たとえば、メロンパンを半分に割ったとして、どちらの半分が美味しいかは比べられません。
一言だけ述べると、江頭先生は、引用が丁寧・古い文献も豊富でして、かつ非公開・非大会社の記載も多い印象です。他方、田中先生は、現代的・先進的コラムやベンチャー企業の記載も多い印象です。
暗記などできませんので、どちらも座右に置いております。

(2)入門書 : 中東正文ほか著「会社法〔第2版〕 (有斐閣ストゥディア)」(2021年、有斐閣)と川井信之「手にとるようにわかる会社法入門 」(2021年、かんき出版)

この2冊も好みの問題かと思います。
会社法は膨大になりがちです。そのような中、両冊とも300頁以内、図表あり(川井先生の方が多い)、令和元年会社法改正に対応しています。

ちなみに、僕は、一番最初に会社法の勉強を始めた2008年ころは、近藤光男先生の「会社法の仕組み<初版>」(日経文庫、2006年)を初めの一冊に選びました。リーガルクエスト会社法が2009年に初版刊行ですので、それよりも前となると、非常に懐かしい記憶です。自らの経験上、薄い本を何度も読んだことが、会社法を好きになった一つの遠因だと思っています。


4 今年かって良かった本(マニアックなものを除く)

(1)裁判所職員総合研修所「倒産法実務講義案」(2021年、司法協会)

14年ぶりの改定版。
記載内容は、司法協会なので、安心安全。そして、司法協会の書籍には珍しく、図表たくさんですし、文章もかなり読みやすいです。


(2)椋野美智子・田中耕太郎著「はじめての社会保障〔第18版〕」(2021年、有斐閣)

本書は「社会保障」ではなく「社会保障」の本です。
毎年新版がでます。僕は、5年に一度くらい購入しています。
たとえば、
・離婚時の年金分割の年金の意味
・交通事故時の治療に使う「労災補償保険」「医療保険」の意味
など、市民法律相談を受けるときに、知っておいた方がいい社会の仕組みについて、非常に分かりやすく記載されています(ただし、実況講義風なので、読みにくいと感じる方もいるかもしれません)。
司法修習生の方に「法律書以外で一冊だけお薦めする」のでしたら本書を推します。

(3)向井蘭「改訂版 会社は合同労組・ユニオンとこう闘え!」(2020年、日本法令)

表紙イラストが、どうみても労働者が団結している風なのはさておき、使用者側で著名な向井先生の書籍です。労働法の純粋な勉強のために購入しました。労働契約法・労働基準法は、使用者側/労働者側でいろいろ書籍がありますが、労働組合法の使用者側の本は多くない印象です。


5 おわりに

僕は、いつもマニアックなことを書きたくて仕方がないタイプです。
事務所にも相当数の書籍はあり、個人的にも惜しみなく書籍を購入している方かと思います。
その上で選んだ結果が「ド定番」の再紹介になりました。
やはり、多くの方がすすめる本は理由があるのだと思います。
通向けの書籍のご紹介は他日を期すことにいたします。

ところで、たしか、登録2年目のころでした。
定型的な民事事件か何かで、書籍を調べて「相場ではこのくらい」と見通しをつけて当時のボスに報告をしたことがあります。
すると当時のボスに「若いうちは、相場や見通しなど気にする必要はない」と云われました。
相場や見通しについては、それを持つこと自体は良いのでしょうし、無ければ不安です。しかし、偏見のコレクションかもしれない「相場」や「見通し」に外延を画されることには慎重でありたいと思います。

あらためて考えると、この丸8年で散々書籍を購入し、多くの論文を読みました。次の4年間では困難かもしれませんが、いつか、書籍とまではいかなくても、論文一本だけでもいいので、自分自身の分身ともいえるものを書きたいなぁ、とそんなことを思っています。


非常に真面目な記事になりましたが、普段の僕は基本的に陽気です。
そして、明日の裏LegalACは、ノーネクタイのマイクロス様です!
「企業法務系事務所アソシエイトのキャリアプラン考察」が予告されておりいます。僕も広義では、企業法務系事務所アソシエイトなので、是非、読みたいです!


6 執筆者情報

STORIA法律事務所
弁護士 菱田昌義(hishida@storialaw.jp)
所属事務所:https://storialaw.jp/lawyer/3738
個人サイト:https://www.hi-masayoshi.com/
※ 執筆者個人の見解であり、所属事務所・所属大学等とは無関係です。


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