6・緊張感
松濤美術館は哲学的な建築と称される。
喧騒から離れた場所に息をひそめる岩の塊は、
対峙した人間の心臓に重しを一つ乗せるようだ。
頭上に浮かぶ切取られた楕円の屋根と、
屋根まで達する金色縞の扉に迎えられた時、
その緊張感はピークに達する。
建物に足を踏み入れると、不思議な光景が広がる。
それは曼荼羅のように果てしない多焦点で、砂漠色した天井である。
道は二つあり、正面の重厚な扉を開けて橋を行くか、広間に行くか。
当然、転回して広間へ行く。
広間の向こうには悲しそうな植物がじっとしている。
螺旋階段へ。
まるで誰にも見つからなかった洞窟のようにしんとしている。
ほのかな灯をたよりに下へ下へ潜っていく。
展示室を半周まわりここで一つの事実に気づく。
ずっと廻っているのだ。建物の中に入った時から。
傍らには、噴水が壊れた玩具のように水を延々と出し続けている。
螺旋階段を一番上までゆっくりゆっくりとのぼり2階まで行く。
楕円に切り取られた空だけが眩しく、目に痛いほどだ。
展示を観てまわり、1階に降りる。
すでに足は先を急ぐように勝手に動いている。
出口に向かう前に振り返ると重厚な扉がこちらを見据えている。
意を決して重い両開きの扉を開け、橋の上に立つ。
水が水面に打ち付けられるザーという単調な音を、
取り囲む無言の列柱と共に聞く。
向こうに見えるもうひとつの扉の先はどうなっているか分からない。
駆けるようにして建物を出た。
心臓の重しはいつまでも鈍く残った。
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