12・誇張法

日本で一番、いや、世界で一番の繁華街渋谷の先に
豪華絢爛でありながら、人っ子一人いない静寂極まる松濤という町がある。

総合芸術と呼ばれる建築の中でも松濤美術館は
美の頂点といっても過言ではない。
その外観は荘厳ここに極まりといった風情があり、
日本には存在しない希少な石を外壁に贅沢に使い、
その外壁の中心には黄金の滝を思わせる格子が位置し、
軒裏から降り注ぐそれはまさに天から流れ落ちる滝である。

厳粛な面持ちで中に入るとそこには黄金の宮殿と違わない風景が広がる。
その黄金の向こう側には、精緻の技が散りばめられた橋がありそこに立つ者の心を震わせる。

秘宝鎮座する展示室へは最古の洞窟のような螺旋階段を延々と降りてゆく。
その中途には光り輝く世界一の意匠を持つ照明が架けられている。

最上階にも展示室はあり、有史以来の天上の心持ちを抱え階段を登ってゆき
観終わった我々の前には地下深くまで続く吹抜けが、深淵へと意識を持ち去ってゆく。

世界で最も権威あるプリツカー賞を嘱望された偉大なる建築家による
最深層の世界が松濤美術館にはどこまでも広がっている。

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