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1月28日の日記 パパを手に入れろ 『エスター』を観た

・映画観るウェーブに乗ってツイッターに「いい映画はないか?」と聞いたところ、「エスターを観てくれ」と言われたので観ました。マシュマロで「ドクター・ストレンジを観てくれ」と言っていただいた方も、ありがとうございました。ちょっといま観れない感じだったので、機会ができたときに観ようと思います。

・三人目の子を死産した二児の母(三児と言った方がいいのだろうか?)が色々回復してきて「養子を貰おう、前を向こう」とポジティブになったところにやってきたのが悪魔だった……という筋書き。「やけにセックスやお酒にスポットライトが当たってるなあ」とアメリカの風を感じていると、それが家族仲の指標になってきたりエスターの憎悪の根源となったりしたので唸りました。作劇が上手いぜ!!

・一応「エスターは実は大人なのである」というポイントだけは知っていたのですが、ケイト(母)への憎悪が凄くてジョン(父)を求めていた、ていうのは全然知りませんでした。


・それまでは機嫌良くやっていたエスターが変貌したのは、夫婦のセックスを見て以降。それ以降のエスターの何かにつけてケイトを煽る姿勢を見るに、「やっと私の『パパ』が手に入った!」と本人も喜んでいたのかもしれません。

・しかし夫婦セックスの目撃によって、エスターはその夢が夢でしかないことをむざむざと知ってしまいます。

・一人の女性であり子供であり大人であるエスターが求めているのは一人の男性であり(必然的に)父であり庇護者。一人の大人として愛されるには、一人の大人として自立しなくてはならない。この義務を果たそうとしないためにエスターは「パパ」を求めて生きてきたのでしょう。

・この辺りの万能性なんかは子供らしいですね。33歳にもなって「この人は私のパパになってくれるかもしれない人なのに」と逆ギレすると白い目で見られること間違いなし。あるよね。「この人は自分の彼氏になってくれるかもしれない人だったのに」みたいなやつ。いるよな。赤いやつ……。テメエだぞ。赤いやつ!!

・脱線はやめて。エスターは単に「子供の演技をしている大人」ではなく、大人になったことがない人間です。その心理は結構複雑で「子供として愛されたい」「一人の大人として愛されたい」「自分を馬鹿にするやつらは全員ぶっ殺したい」が同居しています。大人として扱われたいのに子供として愛されることしか知らないエスターは哀れです。ケイトが自分の夢を壊す存在だと分かってからは、猫かぶりである模範生をやめてどんどん敵対的になっていきます。

・序盤で賢い系で売ってたために、ピアノが弾けたり薔薇を切ったりしても「子供のやることだから」と庇ってもらえなくなってしまうエスター。それはそう。子供たちを恐怖で支配し、母親を社会的に抹殺することでどうにか居場所を作ろうとする悪辣さがどんどん出てきてケイトとの絆は早くも断たれてしまいます。


・一方、ダニエル(兄)とマックス(妹)も中盤から結託し始めます。当初は疎遠気味だった二人がエスターの暴虐をどうにかしよう、と子供同盟からエスターを切り離したのです。


・エスターは孤独です。ずっと孤独です。身を守るために「子供である」術しか持っておらず、しかし子供からは不気味がられて浮いてます。悲しいほど年の離れた子供からいじめられ、馬鹿にされ、それでも物理的に殺す意外の手立ては思い付きません。エスターは人殺しを厭わない悪人ですが、他人を心理的に支配できるサイコパスではないのです。

・最後まで庇ってくれていたジョンも遂にエスターの不気味さに気付き、父子という関係からも切り離されました。


・エスターは病気を持った殺人鬼ですが、幼稚な成人であり愛を求める女です。「愛されたい」「守られたい」「一人の人間として見られたい」と子供なら当然考える思想から、肉体的制限のために卒業できない一人の人間です。

・また、エスターの身の上を考えれば「安心して生きられる場所が欲しい」と望むのは自然なことです。誰も自分を守ってくれず、仲間もおらず、性を差し出して何かを得ることさえできない。

・「ならば手に入れよう、自分の手で、『パパ』を」と思ってやってきたのかもしれません。白馬の王子様ならぬ白馬のパパを。

・エスターがパパを手に入れられなかったのは、ジョンが娘に手を出したりしない「真っ当な父親」だったからでした。エスターは、「パパ」ではなく家族を求めれば手に入れることができたのに。その貪欲がエスターを凍った池に沈めてしまいました。


・絆の強さがエスターを追い込んだ、という終わり方でしたが……。これ、怖くないですか?エスターの死体が出るまで信じられん。「ほら、この子エスターって言うんですよ」といくらでも作品作れるやつじゃん。

・エスターはまだ『パパ』を探しているかもしれない、あなたの後ろにも……。

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