「被雇用者的」生産性 = ( 創出価値 * r ) / 投入時間

昨今の働き方改革に関する議論の煽りを受け「(労働者の)生産性」について語られる機会が増えてきた、というような趣旨の導入文を書きかけましたが、生産性にという言葉は冷静になると感覚的には10年以上、飽きるほど耳にしてきている気がします。

少し前に伊賀泰代さんの本でも生産性がテーマとして取り上げられています。伊賀さんの本は好きなのでこれについて書こう!とも思いました。が、まだこの本は読んでいないので、あえて読む前に書き、書いたあとに答え合わせ的に読み、全く想定していなかったような視点の内容に打ちのめされることで、自分の考える力のなさを測ることにします。

生産性 = 企業価値への寄与 / 労働時間 ?

多くの議論では 生産性 = output / input と定義していて、これ自体に議論の余地はなさそうな気がします。しかしその構成要素である output と input は結構曖昧、もしくは簡単に扱われることが多いんじゃないでしょうか。

これらに考えを巡らせてみると、自分の印象では(特に働き方改革の文脈で語られる場合)大体が input = 労働時間 としたうえで「これまで我が国では output を追い求める中で input の大きさ、つまり生産性に対する意識が低かった」みたいなことがよくいわれています。

output は成果なわけですが「ポスト競争に破れた者が、自分の存在意義に不安を感じないよう、過度の風紀委員か業務監査のようなマッチポンプ業務をしていることも多い。この仕事の「成果」は成果とはよべず、生産性を下げる要因だ」といった塩梅で成果の定義も問題化されることは多そうです。この文脈でいくと、outoutを具体的に定義するとしたら outout = 企業価値、つまり将来netキャッシュフローへの寄与度 のイメージでしょうか。

(伊賀さんの本でもそんな感じなのかもしれないし、そうでもないかもしれません)

そうすると、生産性の定義は  

Pe = v / h  
・Pe: 企業にとっての(労働者の)生産性
・v: 企業価値への寄与

・h: 労働時間

なのでしょうか。私の意見としては「あってるし、間違ってもいる」し、もっというと「誰にとっての生産性を考えるかによって異なる」です。

(職場が株式会社であることを前提に書いています。以下でも同様。)

被雇用者にとっての生産性

上述のよくある生産性は、まず間違いなく企業(=株主)にとっての生産性であることを前提としています。output は企業価値だし input は企業にとってのリソースであるわけです。

これに対し、被雇用者にとっての output は考えてみると基本的に受け取る報酬(キャッシュ)および経験、という大きくわけて2種類の資産であるといえそうで、このあたり事情が異なってきます。

一方 input は投入時間という認識で(実際は差異に着目した議論もできそうですが)ほぼ一致していると捉えて差し障りないかと思います。

以上をふまえ、被雇用者にとっての生産性は、(企業にとってのそれと対比して記述すると)これです。

Pl = ( v * r ) / h
・Pl: (被雇用者にとっての)生産性
・v: 企業価値への寄与
・h: 労働時間
・r: 報酬化係数

r という係数を使いました。つまりある人が企業価値を生み出したとして、その実績と報酬は常に等しく相関しているわけではなく、企業の文化やタイミング、人間関係等、様々な要因によって影響を受ける、ということです。r がこういった要因を表しています。

重要なポイントとして、r は他の要素に比べて、被雇用者本人によるコントロール可能性が低く、通常はコントロールできるタイミングが「転職」であるといえます。

では被雇用者はどうするか

企業目線での生産性向上は、被雇用者にとっては手段であっても目的ではないはず。r の存在も加味して考えないと企業のいいようにされてしまうので、被雇用者としてはこういった議論・視点も必要だな、と思います。

たとえば明らかに価値を生み出したのなら、それを主張してよりよい待遇を勝ち取ることができるはずです。価値をうみだしていないのに「こんなに苦労している」みたいなinputだけの主張をしてもよい結果はのぞめませんので、企業からみた生産性が高いことは前提ですが、生み出すところまできたのに、最後に r の壁を崩せず待遇に反映されない、というのは勿体ないと思います。

本当は企業にとっても合理的な r のほうが、転職という手段でrをあげようとする有能な人材の流出を止められてハッピーなのですが、まだそこが洗練されていない会社がほとんどだと思いますので。

転職によって成功を目指す場合もやはり、Peが高いことが前提であることは、下記からわかると思います。つまり「rを忘れるな」というのが本稿のメッセージなのですが、同時に「逆に勢いでPeを忘れてもそれはそれでダメ」ということです。

Pl = ( v * r ) / h
    = v / h * r
    = Pe * r

追加論点(報酬の概念を要素分解)

貢献が正当に給与に反映されるよう主張する。もしくはそういう会社選びを諦めずにしていく。これはひとつの正解であることは間違いありません。でもその結論は当たり前ですよね。。

ここではついでにrを分解して、さらに重要なポイントにも言及したいと思います。最初の方にもさらっと述べましたが、r は給与だけじゃないです。

Pl = { v * ( rm + rx ) } / h
・Pl: (被雇用者にとっての)生産性
・v: 企業価値への寄与
・h: 労働時間
・rm: 報酬化係数(金銭)
・rx: 報酬化係数(経験)

r を、rm(金銭) と rx(経験) に分解しました。ここで、rx は将来の v に相関するといえます。会社で得られる経験は将来のPeを向上させますが、その相関関係は経験の内容によって区々ですよね。

なので得られる rx の観点からも、転職しようがしまいが自分の時間投下のリターンとして最大化を意識しながら、人生を送っていっていただければと思います。

以上です。引き続きよろしくお願いいたします。

今後も記事の有料化は考えておりませんので、もし本noteを相当気に入っていただけました場合には、誠に恐縮ではございますが投げ銭などいただけると執筆継続の可能性が高まりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。