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母との最後の晩餐、ワインデキャンタを2人で嗜む。そして仕事の話をする。

色々とあり、一人暮らしを再開した。
▼色々

出戻り娘を快く迎え入れてくれた母と、「もう一緒に住むことはないかもね」とくすぐったい気持ちで笑い合いながら、地元の小さなレストランへと足を向けた。

社会人になってから、未だに現役バリバリで働いている母と話すのが一層楽しくなった。
時には良きルームメイトとして、時には母として接してもらいながらも、やっぱり社会人の先輩後輩として話している時間も好きだ。

そもそも文理が違う上に、かたや外資、かたや内資。かたやマネージャー歴10年以上、かたや社会人歴1年ちょっととなると、話が合わなさ過ぎて同じ世界に生きているのか不安になってくる。

娘「会社で○○があってね、それで…」
母「えー!そんなことあるの!?え、○○ってどういうこと?」
娘「○○っていうのは、△△がこうで…」
母「△△ってなに?」
娘「あ、それはね…」

話が進むわけがない。結局当初わたしが言いたかったことは何も回収されないまま、デキャンタで注文したワイン(アメリカワインのロッソでした、私はとても好みだったけれど母にはストロベリー感が強すぎてあまり好みではなかったみたい。軽めな赤がお好きな方は楽しめるかと思います)だけがそれぞれのグラスに注ぎ足されていく。

2年目になってようやく仕事のテンポが掴めるようになったと思ったら、「今度はこれに挑戦してみよう」と新しい仕事が舞い込んでくる。
成長するにはもってこいの有り難すぎる環境だと思う一方で、やはり身の回りの生活と心の穏やかさとせめてもの平和は守り抜きたいと、本当に強く思う。
自分のやりたい仕事をしながらも、ささやかな生活の営みを大切にできるようになりたいと強く願う。

という話を母にしたら、
「あなたがその業界でもきちんとプライベートを大事にできるロールモデルになればいいじゃない」
と言われた。

今でこそ主流だが、まだまだ共働き家庭への理解が少なかった時代に、男女共同参画社会基本法という今や当たり前のお話が法律で決められていた時代に、「楽しいから」という理由だけで新入社員から変わらず一貫した業界で仕事を続けてきた母。

仕事をしながら子供を産む。
仕事をしながら子育てをする。

この前初めて聞いた話だが、母より前の世代では女性社員はどんなに優秀でも子供が生まれると退職しており、どこの会社に行っても所謂“子育てしながら働く女性社員”のロールモデルとしての役割を背負わされてきたらしい。

そんな母の言葉だからこそ、ずしん、ずしんと、少しずつ、けれど確実に私の心に沈んでいくのが分かった。

どっからどう考えても今の私は力不足すぎて未熟すぎて、もはやまだ地中に埋まっている咲くかどうかも分からない段階の球根みたいなものだけれど、いつか母のような人に認められたい。

「君が切り開いてくれた道があるんだね」と、先輩にも同期にも後輩にも言わせしめたい。

そんな密かな野望を心の中でうずうずさせながら、個人的にとても美味だったロッソをグラスに注ぎまくった夜。

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