【03】月が綺麗ですね

皆さん、「月が綺麗ですね」という言葉をご存じですか?逸話レベルの確証のないお話ですが、夏目漱石が英語教師をしている時に、生徒が「I LOVE YOU」を「我君を愛す」と翻訳したことに対して、「日本人はそんなことは言わない。月が綺麗ですねとでも訳しておけ」と言ったそうです。グーグルで出てきます。 そしてグーグルでさらに調べると「月が綺麗ですね 返事の仕方」という予測変換が出てきます。それが「死んでもいいわ」というのが適当だというのがネット世論らしいです。こちらは二葉亭四迷がロシア文学「片恋」に出てくるセリフ「Baш(あなたのものです)」を同じように意訳したものだそうです。男「月が綺麗ですね」女「死んでもいいわ」こんなもの、私から言わせてみれば現代の日本人なんて誰もいわねーよっていう話です。そこで今回は年代別にわけて自分なりの「月が綺麗ですね」を考えていきたいと思います。飽くまでも英語を訳すんですよ。 

 小学生編                               男子「また席が隣になれたね。」                    女子「もうこれで席替えが最後だったらいいのになぁ。」

 小学生の最大の恋路イベントと言えば、私の場合、席替えでした。3年生の時、よく隣の席の女の子の鉛筆を奪っていました。目のくりくりとした運動のできる活発な女の子です。「もう、どうしていつも私のえんぴつとるの?」何度もうんざりされましたが、どうしてとるのか、お前はわからなかったのかって今になってすごく思います。ちなみに再び席が隣になることも、「席替えが最後だといいね」と言われることもありませんでした。そんな彼女も今では既婚者らしいです。引き出物が鉛筆だったらドラマチックですが、残念ながら呼ばれることはありませんでした。 

 中学生編                              男子「今度さ、蛍でも観に行かん?」                   女子「じゃぁ、今日塾終わったら自習室で勉強して待っててよ。」 

毎年、6月くらいになると家の近くの川で蛍が現れます。本当にきれいな光景です。中学の3年間、塾に通っていましたが、2年くらいの時によく近所の女の子と一緒に帰っていました。相手の家についてから1時間くらい話し込んだことを覚えています。成長が女子の方が早いため、身長は負けていました。そんな彼女に社会人になってから一度、東京駅は丸ビルのレストランで食事をしたことがありました。身長が私の方が高くなっており、何よりも、あんなに近所の人と10年後日本の中心で二人きりでご飯を食べるという経験が感慨深かったです。成長するもんですね。ちなみにまた会おうってラインしたら返事は帰ってきませんでした。これまた感慨深かったです。 

高校生編                               男子「明日マクドで会えたりしませんか?」               女子「うーん。私は、どちらかといえばミスドがいいんだけど、それでもいい?」 

高校生にもなると経済的に余裕が生まれ、お金を出す誘いができるようになります。人生で初めてのデートがマクドナルドでした。何を食べたかは覚えていません。でもたぶんバニラシェイクあたりをSサイズで。目を見ることさえもできず、ずっと部活の話をしていました。部活の集合時間が近づき、お店を出ようとした時に、「あの・・・。本当に僕でいいんですか?」って言ったことだけ覚えています。ちなみにミスドのコーヒーって飲み放題なんですよ。知っていましたか?

 大学生編                               女「先輩!東京のクリスマスの夜景はすごいですよ!絶対見た方がいいです!」                                 男「あのさ・・・それ俺に一緒に行く人がいないってわかって、あえて言ってますよね?」 

「クリスマスってほんまなんやねん」って独り言を自宅で言い続けた大学一年生。「クリスマスってほんまなんやねん」って後輩にちくりと吐き捨てた大学二年生。初めての独り暮らし、東京進出。後輩の言う通り、東京のクリスマスの夜景はすごかったです。おかげでもうどこの夜景も二度と観ることができない体になりました。特に恵比寿、表参道、ミッドタウンあたりは。クリスマスってほんまなんやねんな。今でも思います。 

社会人編                               男「あのー、この歳になるとですね、中々コナンの映画観に行こうなんて人にいえないんですよ。だからいつも一人で観に行ってるんです。」      女「なんですか、それ笑。普通に観に行きましょうよ。それで美味しいご飯のオプションもつけましょう。」 

コナンの映画をいまだに観ています。もうこの歳になると人に観ているということも中々言い出せないです。恥ずかしくて。でもそんな話をしたら、後輩に笑われました。私だって毎年観てますからね。だそうです。あまりにかわいらしい子なので、いつも喋り口調が敬語でへりくだってしまいます。ちなみに美味しいご飯のオプションは、本当は私が提案してつけました。飲めなかったワインが飲めるようになった彼女の笑顔をいただく私。下心も吹き飛ぶ笑顔でした。神楽坂という街です。二度といけない街だったはずがいけるようになりました。二重の意味で私は偉くなりました。 

 ずっと書きながら気づいてはいましたが、「月が綺麗ですね」の意訳には無理があります。それでもこうして何もない夜にひとりぼっちで月を観ていると言いたくなる時もあるのです。過去を振り返り、あぁするでもなく、こうするでもなかったなと反省する回想もちらほら。だからこそ、もし次の機会があれば、私は、はっきりとストレートにこう言おうと思います。 

 「月も綺麗ですね。」って。  

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