思い出話
まだ青二才だった頃の話だ。
栄養剤はご飯だから冷めないように届けるように。ちゃんとご飯として扱うように。そんな指導を受け、素直にそうだと思ってお届けをしていた。
ある朝、経鼻栄養のボトルを片手に私は居室に入り、利用者さんに「ご飯よ」と声をかけた。
「ごはん?!」
彼女のあんなに弾む声を聞いたのは初めてだった。拘縮が進み一定時間ごとに体位変換が必要な身体で精一杯首をひねり、嬉しそうな顔をこちらに向けている。私も足早に近づく。
ボトルが彼女の視界に入った時、それまで見た中で最も落胆した表情が浮かんだ。眼の光ってここまで失われるものかと。
「ごめんね、そうだよね」
それ以外の言葉は出せなかった。薬って言った方が余程人道的だと思った。以来、退職までずっと栄養の薬と呼び続けた。
もう20年以上も前のこと、10分かそこらの出来事を思い出してはいまさらどうにもできないことをクヨクヨこねくり回す黄昏時。
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