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【創作大賞感想】『引き出しにしまった話』を読んで

細村誠さん(笑い猫さん)が創作大賞に作品を出されていたので、その作品を読んでの感想です。

読み終わった感想は『”答え”を求めない関係性は、ある意味BLの本質なのかもしれない』ということでした。


あらすじ

(若干のネタバレなので、まずは本編を読まれることをお勧めします)

このお話は一通の手紙から始まります。
(なんか、お話の始まりが手紙って良いですよね。その時点ですでに歴史(過去のエピソード)を感じさせる演出が素敵)

絵葉書を送ってくる相手は高校時代の親友、棗(なつめ)くん。
彼は世界を放浪しつつ各地から主人公(井波)に手紙を出している訳ですが、その棗くんと井波くんの関係性が『BL』なんですね。

棗くんは高校時代、井波くんに告白します。
そしてその返事をまたずして、彼は遠い世界へ行ってしまい、それ以降不定期に手紙を送る関係になっていくわけです。

それから長い時が経ち、大人になった井波くんは子供も生まれ、色々と環境は変わりましたが、相変わらず棗くんから手紙が送られてくる関係性が続いています。

その手紙をひとしきり読んで引き出しに入れる作業も、何年もしていると特別な儀式のようになっていきました。

そんな中、唐突に棗くんに関してのニュースが流れてー。

みたいなお話です。


感想

ジャンル的にはBL(男性同士の恋愛)というジャンルに入ると思うんですが、残念ながら私はあんまりそちらの方の作品を読んだことないんですよね。

なので『自分にも分かるかな?』と若干心配しながら読ませて頂いたんですけど、全然杞憂でした。

ベテランのプロの漫画家に対してこれを言うのもどうかと思うんですが、コマ運びやセリフのテンポが上手いのでスイスイ読めます。17ページは描くのは死ぬほど大変ですが読むには一瞬で終わってしまう長さなので、その中でどう話を展開してエピソードを詰め込むかって本当に難しいことだと思うんですね。それを読者に感じさせないくらいスムーズなコマ運びやお話の展開はやっぱりさすがだよなーと改めて思いました。

さて肝心のお話ですが、このお話って結局、棗くんはカップルになることはおろか『告白の答え』すら聞けてないんですよね。告白しただけ。

だけど棗くんは井波くんに手紙を送り続け、井波君はそれを受け取り、毎回同じ引き出しにしまうのです。

私は『ああ、こういうのがBLなのか~』と思ったんですよね。


秘めた想いを持ち続けたまま関係性を維持する、、、というか、『結論を求めていないこと』がBLなのかもしれないと。

井波君の娘さんの反応から見て分かる通り、棗くんが書いた手紙にはきっと普通の事しか書いてないと思うんですよね。自分の深い過去の話とかも書いてないし、もちろん『今でも君が好きだ』とか愛を綴る言葉も書いていない。

だけど、井波君が棗くんの絵葉書を見て、毎回娘さんとは全然違うものを受け取っているのです。

それは言葉にならない親愛の気持ち。
井波くんだけに通じるラブレターを書いてたと思うんです。

きっと棗くんと井波くんだけに通じる暗号みたいなもので、棗くんからしか送れないという一方通行のコミュニケーションだけが二人の関係を純化させていったのだと思うんです。


めっちゃ純愛やんw。


で、私は思うんです。
男女の恋愛物でもこういう感じ、あるのかな~って。

まぁ、無い訳はないですよねw。世の中死ぬほど恋愛物ってあるわけだし。

だけど普通の恋愛だと『答え』って欲しくなるじゃないですか。
告白したらその返事が欲しくなるし、たとえ振られたとしても諦めずに頑張るみたいな次のステップに行けるわけです。
だからとりあえずダメだったとしても答えを貰ってから次に進みたいと、ほとんどの人が思うんじゃないかなーと思うんですね。


だけどBLだと『答えを聞かないこと』は必ずしもダメではなくて、ある意味そのジャンルのアイデンティティとして成立するんじゃないかと思うんです。
なぜならそこには常に『後ろめたさ』を感じるから。


『心中物』や『不倫話』が倫理に反したとしても人々を魅了するのは、常識や道徳に反する『後ろめたさ』と共に、その一線を超える快感が存在するからだと思うんです。
性的マイノリティーの恋愛がそれら"反道徳的”なものと同じとは思いませんが、マイノリティーゆえの偏見や、告白した相手が自分と同じとは限らないという条件の厳しさは、やはり常にある種の『後ろめたさ』を漂わせている気がするんですね。(全然見当違いだったらごめんなさいw)

井波くんに『答え』を聞けなかった棗くん。

即答できなかったことを、手紙が来るたびに思い出す井波くん。


その答えのない関係性こそが手紙のやりとりの本質であり、その想いが積み重なって溜まっていった引き出しこそが、友達でもなく恋人でもない二人の想いが詰まった年月だと思うんです。
その想いと年月が、二人の関係性に重みと深さを与えているんじゃないでしょうか。

答えが聞けないからこそ関係性を続けられたし、その先の可能性を考えられた。

答えがなかったからこそ、それが”切ない”のかな、と思いました。


前に有名な漫画家の人が仰っていたのですが、『物語の本質は”切なさ”があるかどうかが重要』だと。読者はその切なさに惹きつけられるし、それが無くて売れている作品はない、と仰ってました。

その時は『ふーん』なんて思っていたのですが、でもBLがなんでこんなに人を惹きつけるのか、その理由のひとつになるのかな、とも思ったんですよね。BLというジャンル自体そもそも『切なさ』があるのではないかと。


本来『告白して、その答えを聞けない』ことって、すごくつらい事だと思うんですよね。
だけどそれで続けられる関係性があるのならば、『つらさを抱えたから持てる希望』もあるんじゃないかと。

きっと棗くんが求めていたのはそういう類の物だし、それが分かっていたから井波くんも家庭を持ちながらも受け入れたのだと思いました。
でもよく考えると、それって本当に切ない話ですよね。

このジャンルは門外漢ながらも、何となく魅力が分かったような気がしたのは、この『引き出しにしまった話』が短いながらもこの『BL』というジャンルの魅力を見事に表現されているからなのかなーと思いました。

もし気になる方がいらしたら、是非~!




ちくわ【どんぐり】


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