村八分
まず駐在員がやられた。
喉をざっくりとひと掻き。
電話線もやられてるんで、連絡のねぇことを知った麓から人が来るには2、3日はかかる。
ろくに時間も経たんうちに材木屋の安市がやられた。
胸を火掻き棒でぐさりとひと突き。
家のもんが周りに居たが、犯人の顔や背格好について誰も覚えてないらしい。
その次は表具屋の嫁さん。
店先で首をぐいっとひと捻り。
『現場が見られとうに誰もやった奴を見てない』けったいな状況に村中大騒ぎになった。
4件目。
金物屋の正一爺さん。
店先で全身タコ殴り。
今度は「犯人を見た」と言い出したやつがおった。
去年暮れに越してきた治三郎。
「どんな奴じゃった」
「あの...誰じゃったか、男じゃったような…」
「要領えん答えすなや、村ん者か」
「いや、でもそうじゃったか...あの、構ったらいけん言われた...誰じゃったか…」
「外れの平七じゃ!」
突然声を荒げた村長に皆が顔を見合わせた。
「誰じゃ」「知らんぞそんな奴」
平七は堤の修理をサボったせいで20年ほど前から村八分に遭っていた。
挨拶せんように返さんように、おってもおらんよう振る舞えと口うるさく言われて育ったもんじゃった。
「だどもいくら村八分にしとるからって見えなくまでなるもんかの」
「なっとる以上なんとかするしかあるめえ」
「麓から駐在の代わりがくるまであと二晩はかかろうて」
「見えないゆうなら見えるもんを作ればええ」
「どうするんじゃ」
「村八分もん同士ならお互いが見えるはずじゃ」
…俺はくじ運が悪かった。
村のもんは慣れが早かった。
すっかり「村八分もん」にされた俺は翌朝、あの小屋に向かった。
そう、村はずれのええと...そうだ平七、平七の小屋じゃ。
見えるようになっとるか確かめんといかん。
小屋ん中におる平七がはっきり見えた。
全身を斬り刻まれ事切れておった。
【続く】
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