カレン・ザ・トランスポーター #7
ノックアウトした馬鹿2名を立木に縛りつけ、私は再び駆け出す。
「貴様捕虜に対する待遇は戦時条約で…」
「そもそも小隊長なんであんな手に引っ掛かったんですか」
「うるさい黙れ」
「別に大きい声でもないのにうるさいとか言って反論を押さえ込むのは 老害の証拠だって司祭様が…」
「うるさくないけど黙れ」
背後の醜い言い争いはすぐに遠ざっていった。
―――話は数分前に遡る。
本来であれば【ほんのわずかにちょっとだけ子供よりな外見というだけで私を子供扱いした罪】でバジリスクオニオンの目薬を差してやりたいところだが、そんなことをしている暇はないくらい、ここで知った事実は私の足を急がせるに足るものだったのだ。
あ、いやもちろん私は子供じゃないし、私がそこまで小柄なわけではないというのは重要なんだけども。
いきなり本名で呼び合うという馬鹿加減から、もしかしたら所持しているかもしれないと懐を漁った甲斐があった。
―――認識票。
戦死した兵士の身元確認に使用される小型の金属板。
馬鹿正直に持参していたそれは、連邦領コーラル共和国。
すなわち、今回の依頼主のものだったのだ。
その識別票を目の前でチラチラさせながら、縛り付けた2人に尋ねる。
「これはどういうことかしらぁ? 国家から正式な依頼を受けた【運び屋】の任務を阻害したとあっては、あなたたち明日の食い扶持どころか首から上がなくなるんじゃないの?」
私の質問にヒゲ小隊長、ライエルが食い気味に答える。
ちなみに気絶しているうちにヒゲを半分剃っておいたが本人はまだ気付いていない。隣の若いのは笑いをこらえるのに必死になっているが、こっちも眉毛を半分剃り落としてある。
「わ…我々は執事長バルガス様より『つい最近王室費を私的に使いこんで怒られたのでポイントを稼ぐために王女様に直接お召物を届け取り込んだ上で、あわよくば執り成しもしてもらいたいのでガルム峡谷までの護衛を頼みたい』と命を受けたもので、これは正式な任務である!」
「胸を張って言えることかあぁぁぁぁっ!!!!」
しかしこれで合点がいった。
おそらくあのカタログは王女様の好みを記したもので、ここティラントで買い揃えた上でガルム峡谷へ向かうつもりだったのだろう。
気持ちはよーくわかるが、あのおっさんだってあらかじめ購入した女性物下着満載のトランクを抱えて旅馬車に乗りたくなかろう。
地元で購入などしようものなら足がつきやすいし何より目立つ。
で、たまたま同じトランクを持った私と乗り合わせ、トランクが入れ替わったことで私が【運び屋】だったことに気づき、これ幸いとそのまま自身で届けることにし、この2人に追跡する私の始末を命じた上で、手がかりになりうるトランクの回収も命じたというわけだ。
・・・うん、辻褄が合うぞ。
「そのバルガスって執事長、もじゃもじゃの白髪のひと?」
「もじゃもじゃって言うより超もじゃもじゃかな」
「トーマス!軽々しく情報を口にするんじゃない!」
裏は取れた。それにしてもあんたが言うなよ。
―――――――――――――
私は走る。
高級下着を取り返すために。
下着泥棒の被害者みたいなことになっている私の目の前に、急流を挟んで聳え立つ千年岩の岩壁、ガルム峡谷がその姿を現した。
【つづく】
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