アーリー・アフタヌーン・ウィズ・ブルー・ブルー・スカイ #5
ゴトゴト。
仔牛は広場の中央に進んでいく。
縄をかけて取り押さえようとした1人が力に抗いきれず引きずられる。
男を支えた何人かも同様であった。
肉切り包丁を構えて突進した男は仔牛の目の前で急に立ち止まり、呆けたようにその場に立ち尽くしている。
ゴトゴト。
仔牛は広場の中央に足を進める。
一番大きな机の前に立つと、担いでいた荷馬車を両の前脚で天に捧げるように高く掲げた。
ボトッ! ボトボトボトッ!
幌で覆われて見えなかった荷台から、大小さまざまな肉塊が机の上に落ちてきた。
「イヤァァァァァァァッ!!!」
それが何であるかを理解した婦人が悲鳴を上げ、屈強な農夫が目を背けて嘔吐する。
大きい塊は人であった。
服を剥ぎ取られ、糸の切れた操り人形のように机に、地面に落ちていく。
小さい塊は人の部位であった。
血でびっしょりと濡れた頭部に黒い髪の毛が纏わりついている。
膝から下の骨が剥き出しになった大腿部が砂に塗れている。
避難を呼び掛けていたジェニーもその凄惨な光景に言葉が出ない。
仔牛は前脚で机の上のモノを払い落す。
そしてひとつの肉塊に噛みつくと、それを机の上にそっと下ろした。
頭部と両手足の切り落とされた人間の胴体だ。
ある者は悲鳴を上げ、ある者は嘔吐し、ある者は逆上して鋤を突きたてようとしたが転倒し動かなくなった。
仔牛は前脚の蹄を荷台に伸ばす。
ガランガラン。
ジェニーも、市場の皆もよく知った音であった。
仔牛は蹄に挟んだハンドベルを鳴らす。
ガランガラン。
―――――競りの始まる合図であった。
【続く】
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