アーリー・アフタヌーン・ウィズ・ブルー・ブルー・スカイ #6
ガランガラン
ベルを鳴り、仔牛の足元には痩せこけた野良犬が2匹ふらふらと寄ってくる。
机の上の肉塊が無造作に地面に放りだされ、静寂の広場に咀嚼音のみが広がっていく。
もはや誰のものとも判別がつかぬ頭部が机に置かれる。
テントの柱に止まったカラスが鳴くとその方向に頭部は投げ出され地面を転がっていく。血に塗れた長い髪は暖かな風になびくこともない。
黒い塊があっという間に群がり、頭部は見えなくなった。
仔牛は思う。
私は人を売りに来たのだ。
嗚呼、なんと人間は可哀想なのだろう。
少女は思う。
あの仔は自分を売りに来たはずなんだ。
ああ、なんてこの仔は可哀想なんだろう。
唖然とし慄然とする大人たちの中をジェニーが歩いていく。
仔牛に向かって歩いていく。
荷台に括りつけられた眼球が一斉に彼女を見据える。
ジェニーは視線を逸らさない。歩み寄る。
頭部を白骨に変えたカラス達がけたたましく周囲を飛び交う。
ジェニーは意に介さない。歩み寄る。
机を挟み向かい合う。
少女が手にした紙片を掲げる。
それを目にした直後、仔牛の動きが止まる。
ジェニーが手にしていたのは競りの登録札であった。
ゆっくりと仔牛の角にそれが括りつけられる。
ゴトゴト
初夏の青空にゆっくりと雲が流れていく昼下がり。
ランチを終えて木陰で寝息を立てていたジェニーはその物音で目を覚ました。
仔牛を乗せた荷馬車が市場に向かっていく。
その角にはどこか見覚えのある登録札が付けられていた。
【終わり】
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