カレン25

カレン・ザ・トランスポーター #25


 前 回

 陽はとうに西の地に消え、東の空にはまん丸い月が浮かんでいた。
 高さ20mを超えるセンネンスギの林。
 そのどこかにあるという『女神様が正直者に金と銀の斧を授ける泉』。
 月の光を受け輝く泉の水面には、その女神様が今まさにいらっしゃっている。 
 
 驚いたのはその容姿だ。
 私の頭の中では、女神様というのは「純白の布を体に巻き付けたスタイルのいい成熟した大人の女性」みたいなイメージだったのだが、目の前にいるのはどう見ても「青白く輝きながらぶかぶかの白布を持て余している可愛い妖精」であったのだ。

 カールしながら腰まで伸びる髪には名も知らぬ花や宝石が悪趣味なくらい飾り付けられており、威厳ある女神というよりは...その...人里に出て悪い遊びを覚えてしまった村娘に近いものを感じる。
 体の大きさだって私の半分くらいしかない。
 え?お前の半分がどのくらいかって?察しろ。

 その妖精、じゃなかった女神様が両拳を腰に当て、頬を膨らませながら少し前かがみになるようにこちらを睨んでいる。
 話しかけようとするのを遮るようにあまり威厳のない声がこちらへ届く。
 
 「あなたねー!ほっんと困るんですけど! ちゃんと手順を踏んで持ってってもらわないと!そもそもなんで斧じゃないんですか!びっくりするじゃないですか!でもきちんとあげましたからね!女神に感謝とかたくさんするとよいのですよわかりますかー??」

 「はいわかりましたすみません」
 
 通り一辺倒の謝罪をすると「わかればよろしい」と妖せ...女神様は胸を張った。
 私より無い胸を。

 「あ、そうだ。お詫びと言ってはなんですけど、私、女神様に捧げ物をお持ちしたんですよ」
 懐を探り1通の手紙を取り出す。
 「えー?なになに?ファンレター?困っちゃうなぁーーーー!!!」
 「まぁ、似たようなものです」
 「えー?困るホント困るってー!マジ困る!困るんですけどぉー!!」

 私の手から高速で手紙がひったくられた。
 慣れない手つきで封を破って中の便箋を広げ目を通す。
 女神が手紙を読んでる姿なんてなかなかお目にかかれないぞ。

 だが、女神様の動きが慌ただしかったのはそこまでだった。
 手紙を持つ手がプルプルと震え出したのである。
 体を覆う光も徐々に弱まり、蛍の群れのような無数の粒になって空
へと昇っていく。  
 
 「え?なにこれ? 【辞令】って何?【異動】ってどーゆーコト!?」
 その額には玉のような汗が無数に浮かんでいる。
 「書いてあるとおりッスよ」
 淡々と答える。

「いやでもあたしチョー頑張ったじゃん!?勇者を案内したご褒美に女神にしてもらってさ!いっぱいいっぱい人間を幸せにして!こんなことされる筋合いとかなくない!? やだ!再研修とかやだ!食堂のおばちゃんとかまだいるんでしょ!?絶対ヤダ!」
 今にも泣き出しそうな顔でこちらに訴えかけてくるが、私にはどうしようもないし、何よりこれはお仕事だ。

 上位の神から下位の神への下達ともなれば、『強制』(ギアス)の呪文とは比較にならない効力を発揮する。
 神格を強制転移させることなど思いのままというわけだ。
 
 すでに女神の体は半透明となり向こう側が見通せるくらい薄くなってきている。
 見通したその向こう、林の中にランタンの光がいくつか見える。
村からの増援だろうが、残念ながら既に手遅れだ。 
 「研修所は!研修所だけは嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
その叫びを最後に、泉の女神は全身が光の粒子となって天へと消えた。
 
 ランタンの灯りが近づいてくる。
 お仕事は達成したものの、このままではどんな恨みをぶつけられるかわかったもんじゃない。
 すぐにこの場をトンズラしたいところだが、この疲労困憊の状態で逃げ切れるのかは微妙なところだ。

 「そーゆーわけだから、このまま直帰してもいい?」
 視線を前方に向けたまま、後方にいる存在へと語り掛ける。
 ガサガサッと藪をかき分ける音。

 「ごめんね~カレンちゃん、遅くなっちゃったわ~♪」
 熟れたパインに生クリームをぶっかけたような甘ったるい声。
 現れたのは薄紫で統一したメイド服に身を包み、雪のように真っ白な肌をした見目麗しい美少女。
 
 私の勤務先、運び屋ギルドの受付嬢にして看板娘、シャーレだ。
 貼り付けたようなその笑顔は決して崩れることが無い。

 「それじゃ、”後片付け”は私がやっておくけどぉ~?」

────ヤな予感。

 「私ぃ~、ここまで急いできててぇ~お腹すいててぇ~」

ほらきた。
ランタンの光はそうとう大きくなってきている。

 「時間無いんだからほんのちょっとだけだよ?痛いんだし」
 「はぁ~い」

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          FOEが一体発生しました
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 「はぁ~やっぱり”まだ”の娘のは格別ねぇ~」
 「今度それ言ったら絶交だかんね」


 カレンちゃんは怒った顔のまま林の奥に消えていきました。
 私はスカートの両端をつまみ上げると、”皆様”に対しぺこりと頭を下げご挨拶をします。

 「素敵な夜にようこそ~。バックアップをお勧めいたします~」

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       Battle-Start   Vmp:org ×1
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【続く】
 
 
 

 
   

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