四字熟語

四字熟語世界一決定戦

 東京ドームの上空には秘密の地下闘技場があるという。
 外界から隔離されたこの地では、毎年大晦日にありとあらゆるものの世界一を決定するための闘いが催されているのだ!
 (スタンドA席残り僅かです)

 2019年12月31日、超満員札止めの東京ドーム上空秘密地下闘技場。
 中央に設置されたリングのそのさらに中心。
 タキシード姿のリングアナウンサーがマイクを掲げコールする。

 「今宵ッ!ここ東京ドームウォーターコロシアムで決まるのはッ!」

 ウオオオオオオオオオオーーーーッ!!!!!!
 大観衆がものすごい雄たけびによるレスポンスを行う。

 「四字熟語だああああああああああああーーーーーーッ!!!!!」

 リングアナ絶叫! 

 「四字熟語ッ!四字熟語ッ!!四字熟語ッッ!!!!」

 観客も絶叫!!
 ほぼ同時に会場中に響き渡る楽し気なテーマ曲!

 《こんにちは~ こんにちは~ 世界の~国から~》

 青コーナー側入場ゲートから大勢の人間が出現!リングに向けて行進開始!その数は500……いや、その倍はいるだろう。
 そう、『千客万来』の入場だ!

 「一発目からものすごい強豪をもってきましたね」
 実況アナが解説者に振る。
 「はい。千客万来の脅威はその数にあります。1000人もの人間がクレーマーとなって店に押し寄せたときのことを想像してみてください」
 
 『千客万来』は瞬く間にリングとその周辺を占拠!
 「お客様は神様だろ!」
 1人が叫ぶと残り999人も追随!
 「お客様は神様だろ!」「お客様は神様だろ!」「お客様は神様だろ!」

 「うるせえ!」「さっさと負けちまえ!」「口にうんこ詰め込むぞ」
 嫌な思い出を想起させられたのか、一部の観客がヒートアップ!

 しかし次の瞬間!
 「ヒヒーンパカラッパカラッパカラッ!ヒヒーン!」
 馬の嘶きが会場の空気を切り裂く!
 
 赤コーナー側入場ゲートより勇ましくリングを目指し駆けるのは1頭の巨大な赤毛の馬!その背には中国後漢時代の甲冑を身にまとい戟を振り回す大男だ!

 「まさか!信じられません!」
 解説者狼狽! 実況アナも興奮を隠せずマイクを握る!
 「あれは『一騎当千』です!オープニングマッチは『千客万来』vs『一騎当千』だぁーッ!!」

 カーン! そのままゴング!

 『一騎当千』が駆る巨大赤毛馬は1000人の群集団のど真ん中へ突進!
 人が小石のように跳ね飛ばされていく!
 風車めいて振り回される戟の前に首が、手が、足が、セーブデータが次々と飛ばされていく!
 
 「あ、これはもうダメですね」
 急に冷静になった解説者が言った。
 「えぇ?まだ『千客万来』は9割以上が残っていますよ?」
 実況アナが怪訝に尋ねるが、解説者は黙って首を左右に振ると
 「1騎で1000人に値するので1000人いてようやく互角なんです。はじめから勝ち目はなかったんですね」
 冷静な分析!すごい!

 2分後、リング上で勝利の雄たけびを上げる『一騎当千』。
 しかしすぐさま次の刺客が襲い掛かる!
 
 青コーナー側から姿を現したのは筋肉もりもりマッチョマンの変態!
 「ああっこれはいけません!」
 実況アナも解説者も即座に状況を理解!
 この男こそ『万夫不当』!!
 
 1万人が敵わない vs 1000人とイコールの強さ である!
 すでに勝負はついた! 赤毛馬と大男は腹を出し服従のポーズ!

 『万夫不当』は大男の睾丸をストンピングで踏みつぶし勝利!
 次なる敵に備え赤コーナー側ゲートをにらみつける!
 
 そこに現れたのは……横並びに飛来する2羽のカラスだ!
 『万夫不当』の目には捉えることができないが、それぞれの足輪には「翼」「岬」とネームが刻まれている。
 「なんだありゃ」
 『万夫不当』が訝しんでいると、翼カラスが一声鳴いた。
 「カァーッ!」(いくぞ岬くん!)
 
 その声に反応したように岬カラスも鳴いた。
 「カァーッ!」(わかったよ翼くん!)

 岬カラスは左脚の爪で掴んでいた小石を器用に真上へと蹴り上げた!
 小石の落下地点を挟むようにホバリングする翼カラスと岬カラス!
 やがて2羽間の中央へと落下してきた小石を同時に前方へと蹴りだす!
 そう、小石である!彼らのチーム名は『一石二鳥』!!
 そして狙いはリング上の『万夫不当』、その眉間!!

 螺旋を纏った小石は黄金の弾丸となり狙い違わず『万夫不当』を貫いた。
 筋肉の権化のような偉丈夫はゆっくりとマットに倒れ、二度と起き上がることはなかった。
 
「翼カラスのドライブシュートと岬カラスのドライブシュート、2羽による合体技の威力はそれぞれが単独で放った場合の4倍……いや10倍にもなるだろう……」
 解説席ゲストの角アフロがつぶやく。

 「カァーッ!」(やったね日向くん!)
 「カァーッ!」(そうだな翼)

 喜びの舞を踊る2羽。
 しかし続いて青コーナーに登場したのは彼らの「敗北」そのものとも言って良い存在だった。

 その風体はまさに常識の埒外。
 胴体は犬小屋、両手足はキャットタワー、そして頭部は……鳥籠という異形の怪人!

 その姿をみとめた実況アナがマイクを握り叫ぶ。
 「あっ……あれはッ! 『帰巣本能』だぁーーッッッ!!!」


 【続く】 
 
 

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