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『必中のダンジョン探索 1~必中なので安全圏からペチペチ矢を射ってレベルアップ~ 』を読んで


■はじめに


 この記事は「HJ文庫公式レビュアープログラム」に基づいて執筆されています。

 では、さっそく9月1日発売の新作を見ていきましょう!
 今回、読んだのは『必中のダンジョン探索 1~必中なので安全圏からペチペチ矢を射ってレベルアップ~』です。

■作品紹介

 まずあらすじを確認してみましょう。
 文庫本巻末のあらすじでは、以下の通りです。

地味&不遇な弓スキルが【必中】で大化け!?

結局、“飛び道具”が最強ってワケ!



ダンジョンができた現代。ある日、不遇職・弓使いの天宮楓は不可視の矢を作る地味スキル【魔法矢】に【必中】のレアスキルを組み合わせる禁断の秘技を発見! そして爆誕したのは「ボス部屋の外から、壁を貫通する必中矢を撃ち続ける」チート攻略法だった! 凄まじいボス討伐速度により楓のレベルは瞬時に限界突破し、前人未踏の領域に! そんな彼を人気配信者のリーシェはじめ美少女探索者らも放っておいてくれず……!? WEBで大人気の爆速レベルアップ英雄譚、必中無双の第一矢がついに発射!

必中のダンジョン探索 1~必中なので安全圏からペチペチ矢を射ってレベルアップ~ - 株式会社ホビージャパン (hobbyjapan.co.jp)

■本作の魅力

なろう系はとにかく売り込みがわかりやすい!

率直に言うと、公式のPVが宣材として完璧で、レビューとして紹介すべき内容が思い当たりません。

そこで、作品外部の話に敷衍させようと思います。

ファンタジーラノベの歴史を考えてみると、元々はトールキン系の西欧風ファンタジー、『ダンジョン&ドラゴンズ』系のTRPG風ファンタジー(以下、ハイファンタジーと呼びます)が主だったものが、『ソードアートオンライン』の登場を機にゲーム系ファンタジーが一気に隆盛しました。

この延長線上で、これまでのなろう系小説はゲーム系ファンタジーを基礎にしたものが多かったですね。このジャンルは、作者読者の双方にドラクエのような有名RPGの共通体験があるために、世界観が伝わりやすいというメリットがありました。作者としては描きやすく、読者としても読みやすい、カジュアルなファンタジーだと言えます。

一方、トールキン系の西欧風ファンタジーというジャンルは文化・文明の描写に高いコストがかかります。甘い歴史交渉をすれば作者の教養のなさが露呈しますし、マニアな読者にそっぽを向かれてしまいます(しかも、私もそうですが、このジャンルにはマニアが多いのです)。また、リアルに描写したところで理解ある読者にしか伝わらない、という趣味的、玄人向けのジャンルです。

ファンタジーファンである私の見るところ、ここ十数年ほどはファンタジーラノベはこの両極の間を主な射程としていたように思います。

さて、本題に入りましょう。

本作『必中のダンジョン探索 1~必中なので安全圏からペチペチ矢を射ってレベルアップ~ 』は、なろう系の出自であり。明らかにゲーム系ファンタジーの系譜上にあります。しかし、特徴的な点として「現実とインターネットの融合」があります。

というのも、作品内世界ではMMORPGのようなインターネットの世界が現実と融合し、現実世界のあらゆる場所にダンジョンが出現している、そのダンジョンを探索する活動が一般化している、という前提のもとに話が進みます。スマホを持ってダンジョンに潜る動画配信者も登場します。

おもしろいのは、MMORPGと現実世界の融合が深掘りされていない点です。冒頭2ページの説明のみで、その後はなんの補足もありません。
ダンジョンが世界中に登場し、既存の警察や行政はどうしているのか、生態系はどう変化しているのか、といった地球文明との関わりも描写されません。この生活感のなさは、どこか村上春樹の小説のような不思議な作風です。

これは新しい世代の想像力から生まれたファンタジーではないか、と思いました。実際、作者の方もお若いようです。

というのは、スマホ登場以前、かつての世界はまだユビキタスではなく、インターネットは現実空間とは異なる世界でした。しかし、この感覚はもはや古くなっています。子供のころからスマホが当たり前にあったデジタルネイティブ世代は、インターネットと現実世界の境界を感じていません。

そのような世界観を象徴するのが、「現実とインターネットの融合」型ファンタジーだと思われるのです。このジャンルは韓国系のウェブマンガ(ウェブトゥーン)に多く見られますが、日本ではまだまだ少ないですね。これから増えていくかもしれません。

これに関して言えば、先ほどのハイファンタジーとゲーム系ファンタジーという区分も、現実とインターネットの区分に基づいている、という見方ができます。ゲーム系ファンタジーというのは架空世界でありながら、そこに文明や文化や生活がある仮想世界ではなく、現実世界にあるゲームを基盤にしているからです(事実、ゲーム系ファンジーーではメタ的、ご都合的な設定がかなり許容される傾向にあります)。

平成初期生まれの私もそうですが、古い価値観に引きずられている世代は、こういう世界、設定は思いつきもしません。できません。

言葉を選ばずに言うと、異世界人が書いた小説を読んでいるような感覚になりました。

新しい形のファンタジーを読んでみたい人におすすめです。

■リンク


HJ文庫 公式ページ
必中のダンジョン探索 1~必中なので安全圏からペチペチ矢を射ってレベルアップ~ - 株式会社ホビージャパン (hobbyjapan.co.jp)

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