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9月6日

朝8時に起きた時、頭が痛くなくてホッとした。
今日からウダイプル、ジャイサルメール、ジョードプルを周る旅行だ。
体温計で測ったら摂氏で35.7℃くらいだったので、熱は下がったのだろう。低すぎて信用ならないけど。
最後の最後まで迷って、服は持っているクルティー3着を着回すことにした。
せっかく写真を撮られるならインドっぽい服がいいなと思ってしまうあたり、やはり自意識が過剰な私。

サイクル的に帰ってきた晩のパジャマがなくなりそうだったので、おばちゃんに頼んで早めに洗濯してもらうことにした。
洗濯担当のおばちゃんは私の拙いヒンディー語も最後まで聞いてくれるし、着けているピアスを見ていいね!と褒めてくれた。優しい。
小さいリュックと大きめの紙袋を提げてメトロで空港まで向かう。
ニューデリーで乗り換えた電車は、新幹線みたいに座席が並んでいる初めて見るタイプだった。

空港の荷物検査ではヘアピンを入れている金属の箱すら引っかかって時間を食った。一度でパスできる日が来るのだろうか。
朝食をしっかり食べてきたし、今思えばこの時からお腹の調子が良くなく、フードコートでは Green Tea を頼んだ。蓋を開けたら緑色ではないし、何分待っても湯気がたちのぼる。いわゆる日本の緑茶ではなかったが、飲めなくはない味。
流石に3回目ともなると空港に対するワクワク感も減ってくる。本当はヒンディー語勉強するのにもってこいな場所なはずなのに。

伊勢茶のパック持ってきたのに使ってない

今回の行きの便も Vistara だった。
座席を適当に選んだのだが、通路側で窓からの景色は見えない。どうせインディラ・ガーンディー国際空港を出てすぐは大気汚染で見晴らしが良くないからいいけど。
しかもイヤフォンを忘れた。斜め後ろのおじさんの鼻歌がいびきに変わるまでの一部始終を聴き納めた。
あと、機内 Wi-Fi の使い方が毎回わからない。案内カードの通りにやっても繋がらないので、諦めて機内誌を読んで時間を潰した。

それにも飽きてぼーっとしていたら、あまり期待していなかった機内食が出てきた。
前回もそうだったが、たった1時間弱のフライトでも出るのか。
嬉しい誤算で、今回出たのはビリヤニと甘いパウンドケーキだった。
ビリヤニは辛すぎずクセがなくて食べやすかったし、ケーキはカスタードみたいなソースが甘党の私には嬉しかった。
レモンマサラウォーターが出るか、と怯えていたが、飲み物は水しか渡されず一安心。
食べ終わった頃にまもなく着陸のアナウンスがあった。

パウンドケーキもう1回食べたい

当然なのだが、外に出たら暑い。
が、なかなか空港前で Uber が捕まらず、諦めていかにもぼったくりなおじさん集団のタクシーに乗った。
私は内心ヤバいと思っていたが、それは杞憂で良心的な価格で目的地まで送り届けてくれた。疑いすぎも良くない。
高速道路に乗った直後はデリー空港周辺と似ていた景色が、段々と修学旅行でみたような山に囲まれた田舎になり、気がついたら一方通行しかできない細い道になっていた。

タクシーを降りて歩いていくと、辺りの建物は皆湖を見渡せるよう競うように高く伸びていて、白い壁がそのくねった道を取り囲む。
日本の温泉街にも似た町並みを楽しみながら歩いていると、急な坂の上に今夜泊まるホテルがあった。
まず、入口近くにパグがいてテンションがあがる。
あまり人懐こい感じではないので、後でゆっくり挨拶することにする。
もう少し入ったところにはヨウムもいた。
ちょっと不気味なほど賢くて声真似が得意という私のイメージとは裏腹に、びっくりした目でギョロリとこちらを見て甲高い声を上げるだけだった。
でも、インドに来てから伴侶動物というものに巡り会えていなかったので、久しぶりにそれらしい動物に会えて癒された。実家の犬に会いたい。

ブルーノというらしい、困った顔
ブルーノの鳴き真似が上手かった

ホテルに荷物を置いて、すぐ近くの湖が眺められる Gangour Ghat に行った。
ウダイプルの旧市街には湖が広がっており、そこに建てられた王宮が観光名所となっている。
先ほどの通りを行ってゲートを抜けると湖が横たわり、その両サイドをたくさんの白い建物が取り囲んでいる。
その景色が美しいと評判なのだろうが、それよりも鳩の大群と闊歩する牛が落とした糞の臭気が気になって、私は他の観光客に倣ってとりあえずシャッターを切りつつも困惑した。
少なくともラダックのときの「ここがインドなのか?」という種類の感動ではない。
そしてそれを自覚してしまったことで、普段味わっているデリーが代表する「インド」を私があまり好きではないことが確信に変わってしまった。
パンドラの箱を開けるのは旅行が終わってからにしよう、と自分に言い聞かせる。
雲がなかなか退いてくれず、思ったよりはどんよりとした景色だった。

その手前の Bagore Ki Haveli は王族の邸宅を改装したミュージアムで、友人が学生IDを見せたところインドの成人価格で入場できた。
回廊にかけられた細密画はグロテスクなのが多い。なんで昔の人はすぐ首チョンパしたくなるのだろうか。
貴族のやっていた昔のチェスボードや、顔マネキン付きのターバンの展示も面白かった。
何より建物自体が美しい。白ベースの壁には各所に細かな模様や彫刻があり、独特の窓枠からは湖と町並みが一望できる。
夜はここでナイトショーが開かれるというが、どこでやるんだろう?

ものすごい量の鳩がいた
起きろよ
ターバンより顔に目がいく
左手前にもターバン生首おじさん

一通りまわって外へ出ると、先ほどの雲が動いて光が差し込み、ベールのようにたなびく。
太陽の光に包まれた白い宮殿は神秘的で、光を反射して煌めく湖面が綺麗だった。
曇っていたおかげで思いがけず美しいものを見たけど、明日は青空だと嬉しい。
その後はしばらく街中を散策し、橋を渡って向こう岸のカフェで湖を眺めながらのんびりラッシーを飲んだ。
飲むヨーグルトですらなくヨーグルトそのものみたいな味、食感だった。でも美味しかった。
お腹が痛いので私だけホテルに戻り、少し休むことにした。

こんなところにも牛さん
もったり、口の中の水分をもっていかれる

辺りを散策していた友人としばらくして合流し、ナイトショーに観にいった。
本当はお腹が痛いのは相変わらずだったが、1人で1時間過ごすのも嫌だったのでなんとなくホテルを出ることにした。
出てよかった。
まずインドの古典楽器を使った生演奏を聴けたのが嬉しかった。タブラやシタールは使っていなかったけど、あの気まぐれなようで計算尽くの変拍子がその場で編まれていく様を目の前で見られたことに感動した。

よくわからないタイミングで感極まって泣いた

操り人形と伝統舞踊のステージも面白かった。踊り子が回るたびにスパンコールやラメがキラキラとスポットライトの光を弾き、ドレスの布が風を含んで生き物のように形を変える姿は艶やかだった。
幕間のアナウンスの聞き取りやすいはずのヒンディー語すら聞き取れずに歯痒い思いをしたが、インドの伝統芸能の超絶技巧満載なステージを鑑賞できて嬉しかった。
何より、観客のエネルギーが日本とは違う。
人に揃えて笑ったり手拍子したりする日本のショーとは違って、皆自由にバラバラに手拍子するし、歓声をあげるのにも全く躊躇しない。
観客と共に創る舞台、というのはこういうことを言うのだろう、と余韻に浸る間もなく、友人に明日乗る夜行バスがキャンセルになったことを教えてもらった。どうするんだ。

舞台の上の踊り子はどこでも輝いて見える

その足で眺めのいいテラス席のあるレストランに行った。
建物はライトアップされ、タバコと酒を嗜むお金持ちが沢山いるムーディーな空間にちょっと面食らう。
Old Monk というウィスキーを友人と3人で分け、それぞれ料理も注文した。
私はチーズパラーターを頼んだ。
チーズが入っていればなんでもマイルドになるし美味しいだろう、とたかを括っていたら、パラーターそのものがめちゃくちゃ辛くて水を追加注文することになった。でもやっぱりチーズという文字を見ると頼みたくなってしまう。
ウィスキーもそれなりにガツンとくる強めのやつだったけど、後味が甘くて美味しかった。

観光地なだけあってどこもライトアップされてる
めちゃくちゃ辛かったな

友人が明日の夜行バスを取り直してくれたので、なんとかジャイサルメールには行けそうだ。
ホテルに帰ってからこれを書いている今も腹痛はどんどん激しくなる一方で困っている。
明日までに治りますように。

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