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#5 キング・オブ・ニート

非労働力人口のうち,15〜34歳の未婚で,就業せず,職業訓練,就学,家事や家業の手伝いもしていない者を指す造語。
英語ではNEET(Not in Employment,Education or Training)。
就業意思を見せない点がフリーターや失業者と異なる。

ひきこもりは、仕事や学校に行かず、家族以外の人との交流をほとんど持たずに、6か月以上続けて自宅に閉じこもっている状態をあらわします。


~ここまでのあらすじ~
「姉」に手伝いを頼まれた「私」が、「叔父」の経営する会社で働くようになり、後継者問題に悩んでいることを知り、2年前に突然バックれてしまったという「叔父の息子=いとこ」が今や家賃滞納までして引きこもっているという話を聞いて、彼に直接話をしに行くというところである。


まず会う前に情報をまとめるべく彼のここまでの経緯をメモ。
19歳~27歳 大学生
28歳~30歳 フリーター?
31歳~35歳 叔父の会社で働いていた
36歳~現在 突然来なくなって2年、借金?引きこもり?
なお19歳~現在まで約20年ずっと同じアパートで独り暮らし。

ニートや引きこもりに陥ってしまう背景や事情は人それぞれ、さまざまだと思いますが、まず直感的に、誰もが変だなと感じるであろう点が2つ、
どうやって生活しているの?
え?家賃や生活費を借金しているの?!
一般的に家に引きこもることができるのは衣食住を便乗できる=実家であることがほとんどのはずですが、彼はそうではないという点です。



姉から聞いた話をまとめれば、彼は
1)東京のアパートで「ひとり暮らしするニート」
2)お金の供給が途絶えると「借金をしてしまうニート」
3)親を苦しめても怒られても親戚に会うのも「へっちゃらニート」
なのです。


1)東京でひとり暮らしをするニート

学生時代に親が借りてくれたアパートに卒業後も住み続けていたというわけなんですが、資金源は彼の母親です。

「家賃」+月10万の生活費を出していたことは長らく親戚の誰も、父親すら知りませんでした。

一浪して入った大学に通っていなかったことが判明し父親大激怒、それでも本当に行きたかった大学とやらに入学しなおし、留年も含めて、彼が学生を卒業したのは27歳のことです。

しかもなお卒業前には「大学院にいきたい」という彼の願いを父親が退け、「働け!どうしても行きたきゃ自分の金でいけ!」という一幕もあったそうです。(ド正論です。)

結局彼は就職することも、アパートを引き払って実家に戻ることもなく、
われわれ親族には『卒業後は近所で塾講やってるらしい』と漠然とした噂が耳に入る程度でした。

『小さな塾のアルバイトだけで生活できているのかな?』
『まぁ今は塾や家庭教師も稼げるし、今更一般企業ってのも難しいだろし、独身だしさ、好きなことで食べていけるならそれもいいかもね。』
そんなことを私と姉も当時は話していたのです。

後に知りますが塾の講師のバイト収入は2~3万だったそうです。
なぜ母親は金銭的援助をしてしまったのでしょうか。

2)借金してしまうニート

そんな彼に卒業2年で経済的崩壊が訪れます。
母親の急死です。


もともと彼の母親は出産前から持病があり、一緒に走ったり子どもを抱っこするなどのスキンシップができない体でした。
彼が小学生になる頃には入退院を繰り返し、長い時は2年戻らないことも。
お母さんにいちばんそばにいてほしい年代にそばにいられなかった。

資金源になってしまったのもこれらの背景があったのかもしれません。

おばは病気の苦労はあったものの、一方では贅沢な暮らしをしていました。叔父親族や同居母のおばあちゃんからすれば、叔父が汗水たらして稼いできたお金を湯水のように使われていると感じてしまうことも正直ありましたが長年の闘病は本人にしかわからないつらさがあったでしょう。

そんなおばが亡くなる前に姉に言ったそうです。

「あの子おかしいの…本当におかしいのよ。なんとか助けてあげて。」


その時は何がおかしいのかよくわからなかったけれど、
深刻な事態になっていたことを私たちはのちに知ることになります。



さて、
母親が他界したことでアパートの家賃のことが父親に知られることになり、
彼は一変して窮地に立たされます。

激怒した父親から家賃支払いを蹴られたら塾のアルバイトでは生活どころか家賃すら払えないわけですが、引き払うこともせず、仕事もしません。

人知れず、カードローンでお金を工面するようになるのです・・・。

3)何があってもへっちゃらニート

彼は細々とバイトをしながら複数のカード会社から少額ずつのカードローンを、家賃や生活費にあてました。自分には返す当てのない借金です。

細かいことは聞いていないのでわかりませんが、たぶん数年で行き詰まり、親の知るところとなり、そこそこに膨れ上がった借金を父親が返済して、
結果、「馬鹿者!会社に来い。」と出社させられることとなったようです。なるほど借金を返してもらったらさすがに嫌とは言えなかったはずです。
初めての就職。31歳。親の会社。

それでも彼はその東京のアパートから父親の会社に通っていました。
普通の感覚なら、親に恩義を感じ、少しでも返済しようとか、せめて二度と借金しないように考えるはずですが、彼はへっちゃらなのです。

そして5年間はなんとか会社に来ていたけれど(事情があったにせよ)
バックれるというあるまじき行為をしてしまいました。
それもへっちゃらなのです。

大学卒業からここまで、親戚にも何度も顔を合わせてきたはずなのに、
普通なら”恥ずかしい”とか”居心地が悪い”という感覚があるはずなのに、
彼はいつも変わらず、へっちゃらなのです。

そして現在は、アパートに引きこもり、社会のどこにも所属せず、借金し、いとこが心配してお金や食べ物を持ってきてあれやこれやと説得されても、他人事のように聞いているらしいのです。やはりへっちゃらなのです。


姉がいいました。
「これは本当かどうかわからないんだけど、本人から聞いた話では、
小さいころから彼の母方の実家に行くと、
”あなたはお殿様の子孫なの、その辺の人とは違うんだからね。”って
いつも言われたんだって言うんだよね。
だからまわりが殿のために何かをするのは当然と思ってるんだよ。
気持ち悪いんだけど、本当にそうかもしれないって今は思ってる。」
「それからね、きっと親にはどんだけ迷惑かけてもいい、って思ってる。
つかず離れず親を利用して、あいつは本当にズルい人間だって思う。」








信じられない。
信じられないけど、真実なのだ。



『ふふっ、実家暮らしのニートならまだわかるけれど・・・』
ニートもここまで成長するとおそろしすぎる。

働いていないのに借金できるのは、最初から親をあてにしている
以外ほかならないのだから。

もはやニートを極めた「王」と呼ぶにふさわしいのかもしれない。
などと笑ってしまう。
笑いに変えないと普通の神経では話し合いにならないなと思った。


いや、私がこれから対峙しようとしている人間は
もしかしたらキングではなくモンスターなのかもしれないが。