Saxophone Colossus
本日の“こずや”のBGMは、ソニー・ロリンズさんの1956年の名盤『サキソフォン・コロッサス』です。
何度聴いても飽きない作品です。
私の場合は記憶がある限りで3歳の頃から、なので、おそらくそれ以前から父に聴かされていました。
それから40年以上、たまに棚から取り出して来ては聴き…、また取り出しては聴き…とずっと聴き続けているアルバムです。
ジャズの歴史を見ても最も有名な…代名詞のようなアルバムです。
ジャズファンがサキコロ(サキソフォン・コロッサス)を聴くことは、日本で育った人がお米を食べるようなものです。
ソニー・ロリンズさんは天才と言われています。
20歳の時には、マイルス・デイヴィスさんが“既に伝説的で、多くの若いミュージシャンにとっては神様みたいな存在だ”と言っています。
サキコロが録音されたのは、ソニー・ロリンズさんが25歳の1956年6月22日です。
メンバーは、サックス:ソニー・ロリンズさん、ピアノ:トミー・フラナガンさん、ベース:ダグ・ワトキンスさん、ドラム:マックス・ローチさんのカルテットです。
私が特に子どもの頃から好きなのは、オープニングトラックの「セント・トーマス」です。
おそらく、記憶にある限りで生まれて初めて口笛したのがこの曲です。
マックス・ローチさんによるゆったりとしたカリプソのリズム…この部分だけで永遠に残る名演です。
それに乗ってサックス、ベース、ピアノの順に音が入ってくるところで一気に心を鷲掴みにされます。
ミディアムテンポの前半に対して、急激にエネルギー全開になる後半の高揚感がたまりません。
マックス・ローチさんの圧倒的な存在感のドラムソロからのソニー・ロリンズさんのテナー・サックスに惚れ惚れします。
トミー・フラナガンさんの転がるような優しく可愛いピアノも最高です。
2曲目はムーディーなバラードで、私の世代からすると志村けんさんが出てきそうな曲です。
そんな感じで、あっという間に5曲を聴き終わってしまいます。
ドラマーのマックス・ローチさんと言えば、ドラムをリズム楽器からメロディ楽器に昇華させた最初の人物です。
リズム楽器でありながら、メロディが聴こえてくるようなドラミングがマックス・ローチさんの真髄です。
ジャズコンボであるビバップが始まった時期に活躍して、その後のジャズの発展に大きく関わった人物です。
コンボは3人から8人の少人数編成のバンドのことで、トランペットやサックスなどのフロントと、ピアノ、ギター、ベース、ドラムなどのリズムセクションで構成されます。
それ以前に人気絶頂だったスウィング期のビッグバンドは8人から17人前後までの大人数編成によるジャズの演奏形態のことです。
1930~40年代に活躍したグレン・ミラー・オーケストラやベニー・グッドマン・オーケストラ、デューク・エリントン・オーケストラなどは、今聴いてもワクワクします。
これがスウィング・ジャズです。
マックス・ローチさんが活躍したバップ以前のスウィング期のドラマーは、シングルストロークのアプローチが中心でした。
ちょっとしたルーディメンツが入っても、スネアドラムからタムへの平行移動がほとんどのソロ構成で、スタンダードな曲でも、ドラムソロになった途端に曲と分離したものになってしまうことが普通でした。
速いテンポの曲中でどれだけ速くたくさんのフレーズを弾くか…というアスリート的な演奏方法が主流になっていた時代です。
ドラムも速くてアグレッシブな演奏が求められました。
テンポの速い中でアドリブ演奏をするので、各ミュージシャンのフレーズに反応したり、テンポをキープしたり、人によってはその演奏についていくだけで必死になってしまう場合もあったようです。
そんな流行の中で、速いテンポを見事に演奏しているのに、まるでドラムが歌っているように聴こえるという特徴を持っていたのが、マックス・ローチさんです。
音楽の中にドラムソロが溶け込むアプローチです。
ドラムが歌うというのは、ピアノやサックスなどと違って、音程がつかない打楽器であるドラムの演奏なのにメロディが聴こえてくるというものです。
ドラムには、ドレミファソラシドのような音の高低がありません。
ドラムの場合は、よく使うフレーズをリックと呼びます。
音程がないので、フレーズだけを聴いてもどの曲のどの部分にあてはまるものか分かりづらいという特徴があります。
しかし、マックス・ローチさんは自分のリックをどの曲でも使うのに、曲のコード進行やメロディを聴き手に感じさせるように叩くので、同じフレーズなのに曲に合った自然な流れでソロを進めることができます。
テクニック的に凄いと言うよりは、深みのある演奏と言いましょうか…。
思わず引き込まれます。
マックス・ローチさんは、1960年代には公民権運動に参加しました。
黒人として、当時不当な差別を受けていたマックス・ローチさんは自らの音楽を通して異を唱えました。
既に地位のある人物だったので、公民権運動に参加することは下手すればミュージシャンとしては命取りになる行動です。
それでも、おかしいと思うことには おかしい と言うことを恐れないで『ウィ・インシスト』という人種差別に反対するアルバムを発表しました。
“音楽に政治を持ち込むな”などの批判もあったようですが、彼はそんな批判には負けません。
本来、音楽は自分を表現するもので、“何々をしてはいけない…”などということ自体がセンスの悪いことです。
自分が正しいと思うことを貫いたマックス・ローチさんは凄くかっこいいです。
まさに、これぞパンク…、あぁ~ステキ♪
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