見出し画像

98.認知症

認知症は、様々な原因によって脳の細胞が障害されて、記憶や判断力などの認知機能が障害された状態が続き、生活する面での障害が出ている状態のことをいいます。

認知機能の障害としては、記憶障害(同じことを何度も言ったり、物がなくなったりする)、言語障害(人や物の名前が出てこない)、視覚認知障害(知っているはずの場所で迷う)、実行機能障害(物事を計画を立ててできない)、社会的認知障害(他人に共感したり同情できない)などがあります。

脳は、人間の活動のほとんどをコントロールしている司令塔です。

それがうまく働かなければ、精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなります。

認知症は、様々な原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりした為に様々な障害が起こり、生活する上で支障が出ている状態のことを指します。

認知症は病名ではなく、まだ病名が決まっていない状態の“症候群”です。

つまり医学的には、まだ診断が決められないで、原因もはっきりしていない状態のことです。

似たようなものに、風邪があります。

風邪は風邪症候群であり、喉の痛み、鼻汁、発熱などの同じ症状が見られるのですが、原因がはっきり判断し切れていない状態です。

その為、治療は症状を軽くする対症療法が中心になり、その原因を取り除く根治療法を行っていくには、より詳細な検査が必要になります。

もの忘れには、加齢によるものと認知症が原因となるものがあります。

加齢によるもの忘れは、脳の生理的な老化が原因で起こり、その程度は一部のもの忘れです。

ヒントがあれば思い出すことができます。

本人に自覚はありますが、進行性はなく、また日常生活に支障をきたしません。

認知症によるもの忘れは、脳の神経細胞の急激な破壊によって起こり、もの忘れは物事全体がすっぽりと抜け落ち、ヒントを与えても思い出すことができません。

本人に自覚はありませんが、進行性であり、日常生活に支障をきたします。

認知症には幾つかの種類があります。

主なものとして、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症が挙げられます。

このうち60%以上はアルツハイマー型認知症が原因で、約20%は脳血管型認知症によるものとされています。

認知症の種類によって、症状も変わってくるので、それぞれに合わせた適切な対応やケアが重要になります。

アルツハイマー型は、老人斑や神経原線維変化が海馬を中心に脳の広範囲に出現し、脳の神経細胞がアミロイドβタンパクにより死滅していき、海馬を中心に脳の萎縮が見られます。

特徴的な症状としては、認知機能障害(もの忘れなど)、もの盗られ妄想、徘徊、取り繕いなどが挙げられます。

女性に多く、記憶障害から始まり、広範な障害へ徐々に進行します。

レビー小体型は、αシニクレンというタンパクが脳の神経細胞が破壊し、レビー小体という変性細胞を作ります。

はっきりとした脳の萎縮は見られず、男性にやや多いです。

特徴的な症状は、認知機能障害(注意力・視覚など)、認知機能の変動、幻視や妄想、抑うつ状態、パーキンソン症状、睡眠時の異常言動、自律神経症状などがあります。

大抵の場合は調子の良い時と悪い時を繰り返しながら進行しますが、急速に進行することもあります。

脳血管性型は、脳の血液循環が悪くなり、脳梗塞、脳出血が生じて、脳の一部が壊死してしまう状態です。

男性に多く、特徴的な症状は認知機能障害(まだら認知症)、手足の痺れや麻痺、感情のコントロールがうまくいかないなどです。

原因となる疾患によって異なりますが、比較的に急に発症して、段階的に進行していくことが多いです。

認知症の症状には、記憶障害を中心とした中核症状があります。

中核症状は認知症の方に必ず起きる症状です。

そこに本人の性格や環境の変化などが加わって起こる周辺症状があります。

中核症状は、脳の神経細胞の破壊によって起こる症状で、代表的な症状は記憶障害です。

特に、直前に起きたことも忘れるような症状が顕著です。

その一方で、古い過去の記憶はよく残りますが、症状の進行とともに、それらも失われることが多いようです。

また、筋道を立てた思考ができなくなる判断力の低下や時間や場所、名前などが分からなくなる見当識障害などがあります。

周辺症状(行動・心理症状=BPSD)は、脳の障害により生じる精神症状や行動の異常をいいます。

具体的には、妄想、抑うつや不安などの精神症状と、徘徊、興奮、攻撃、暴力などの行動の異常が見られます。

周辺症状は、脳の障害を背景に、その人の性格や環境、人間関係などが絡み合って起きるものです。

その為、症状は人それぞれ異なり、また接する人や日時によっても大きく変わってきます。

2025年の認知症患者は700万人を超え、軽度認知症であるMCI患者数を加えると約1300~1500万人になり、65歳以上の3人に1人が認知症患者とその予備群といえます。

軽度認知障害(MCI)は健常者とされる人たちと認知症と診断された方たちの中間にあたるMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)という段階(グレーゾーン)のことです。

MCIは、認知機能(記憶力、言語能力、判断力、計算力、遂行力)に多少の問題が生じていることが確認できますが、日常生活に支障がない状態のことです。

MCIの段階で認知機能の低下にいち早く気づき、対策を行うことが認知症予防にはとても大切です。

認知症は誰でもなり得ます。

大切なのは認知症の方を現実の世界に対応させようとするのではなく、周囲の人が認知症の方が持っている世界を理解して、その世界に合わせて対応をすることです。

認知症を正しく理解し、家族や支援者が心にゆとりをもって認知症の方と向き合うことのできる環境造りが重要です。

認知症の方も健常者とされる人たちと全く同じように、見て、聞いて、感じて、考えています。

認知症の方は、記憶の障害により、過去と現在、現在と未来を記憶で繋ぐことが難しくなってきている為に、頭の中は過去を省みることができない不安、未来を予測できない不安でいっぱいです。

そして自分が認知症であるということを自覚されていない場合もあります。

感情をコントロールする脳の働きが低下するので、ちょっとしたことで怒ったり泣いたりすることもあります。

言葉が充分に理解できなくなると、相手の表情、語気、眼差し、ふれあいなどの他のコミュニケーション方法で、周囲の状況を理解しようとします。

そうすることで、感情面が研ぎ澄まされて、相手の様子に敏感に反応することもあります。

相手に良く思われていないことに不満を感じたり、相手が興奮していることに興奮して、そんな自分に更に興奮してしまうという悪循環を招きかねません。

支援する側は、“さっきも言ったしょ”とか“そんなことしたらダメ”とか“転んだら困るから椅子に座ってて”とか…叱ってしまいがちです。

その叱る時の相手の様子などから、余計に不安になって、怒りやうつといった様々な反応が現れてしまいます。

認知症の方の不安を少なくして穏やかな気持ちで生活することが、こうした問題行動を抑えることに繋がります。

支援者の方が気持ちに余裕をもって穏やかな表情で接することが、認知症の方の心の平穏にも繋がります。

ここまで、ふくしのおべんきょう では、「96.お散歩と徘徊」、「97.世界の認知症ケアのこと」、「98.認知症」で、3つの記事で認知症について簡単にお勉強してみました。

痴呆と呼ばれていたのが認知症と呼ばれるようになって20年経ち、おそらく今後は誰にとってももっともっと身近なものになるのかなと思います。

目を逸らしたまま、生活することは困難になると思います。

だから、少しでも関心を持って知ること…、そして、いざ困る前に我が事のように考えることを始めるのも、これからの時代に取り残されない方法の1つなのかなと思います。

本日の ふくしのおべんきょう も認知症研究の第一人者である長谷川和夫さんのお言葉で締め括ろうと思います。

“認知症を発症しても突然、人が変わるわけではありません。
「何もわからなくなってしまった人間」として、一括りにしないでいただきたい。
一人の人間としてじっくり向き合ってほしいと思います。”

写真はいつの日か…札幌市内で撮影したものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?