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短編読物:北方古墳の墓荒らし

🔰序章&項目一覧

ピートルとカルロスは名うての盗掘者だ。神聖アルフモート王国と大ズンゲールサン帝国を隔てる白鷺山脈の南側……王国北部国境の山麓部……に点在する北方人の古墳群を掘り返しては財宝をかっさらい、故買商たちに売りさばくのが二人の生業なりわい)である。

その名前でわかるように、ピートルとカルロスはもともとレリエ公国の出身だ。のっぴきならぬ理由で国から逃げ出したこの二人は、めぐみ川を下ってケイポンへいたり、内ケ海さえも渡ってアルフモートへ流れついたのである。かれこれ十年近く、二人は古墳の盗掘専門で稼いでいた。界隈においては、それなりに名の知れた盗掘者である。もっとも、二人が暴いた墓の場所を同業者たちは知らない。いつ、どこで、どの墓を、どのように暴いたか。そして何を見つけ、それがいくらになったか...そうした事を自慢する墓荒らしなど、三流以下だ。

「ピートル、見ろ。天井と壁に隙間がある。こりゃ隠し扉だ。宝物庫はこっちだな」

相棒のカルロスがランタン竿を上げて指差す。

「おう。干物入りの石棺に用はねえ。どうせ二人じゃ開けねえ重さよ。副葬品が目当てだ」

ピートルとカルロスはランタン竿を壁に立てかけ、罠の確認にかかった。隙間の奥にいびつな滑車が見えるが、そこにかかっていたであろう革ひもは朽ち果て、力なく垂れ下がっている。まさか千五百年以上も後に古墳が掘り返され、誰かが“墓参り”に来るとは、ここを造った北方人も思いつかなかったのだろう。

「よし、罠はないな。カルロス、そこにある四角い石を思い切り踏んでくれ。それで岩戸が浮くはずだ」

口髭を弄んでいたカルロスはうなづくと、足元の石にブーツをかけ、全体重をかけて踏み込んだ。次の瞬間、大きな音を立てて岩戸が右へ開いていく。

「なあ、ピートル。この稼業も長えけどよ、こんなに重い岩がどうしてひとりでに開くかってのは今でもわからねえぜ。この仕掛け、古い墓ほど大掛かりだぜ。上古かみふるってのは、今より進んでたんでねえかな」

「確かになカルロス。実際、お宝だってそうよ。こないだの金細工を覚えてるか? 今の野人どころか、王国一の金工職人にも作れねえ細工だったぜ。故買商のドワーフ爺が目を丸くして見てたろう?」

ランタン竿を一本壁に立てかけ、二人は何本もの松明を床に落としながら奥へと進んでいった。盗掘品を運びだす時には両手が塞がる。足元が暗くては話にならないのだ。まだ秋の始まりだが、古墳の内部は一年を通して寒い。奥に行くほど、冬めいた寒さになるのである。ピートルとカルロスは鞄に入れていた防寒着を着込み、手袋をはめた。手慣れたものだ。

少し進むと通路は右へ折れ曲り、玄室へと続いている。奥まで進むと、二人は顔を見合わせてほくそ笑んだ。そこには手付かずの財宝が、山と積み上げられていたのだ。

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