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【短編小説・出張執筆】サキヲメザシタ、ソノサキニ(#VRメモフライベント)


Ⅰ.この小説について

イベント終了時の集合写真

本作はメタバースプラットフォームclusterにて、リアルタイムで執筆(出張執筆)されました。

日時:11/24(金)22:00~23:00(イベントサーバー)

モチーフは歩留マリさんが制作されたワールド、「脱出するゲーム サキヲメザセ!!」です。

私が事前にある程度下書きを執筆し、本番中に歩留マリさんとリアルタイムでヒアリングしながら残りを執筆、小説を完成させました。

また、会場にいらした多数のお客様の中から、コメントしてくださったあんこさんむぎさんをゲストで登場させました。

Ⅱ.【短編小説】サキヲメザシタ、ソノサキニ


 ワールドに入った瞬間、細長い一本道に降り立った。レンガの壁に挟まれて、突き当りには左への曲がり角。
『脱出するゲーム サキヲメザセ!!』
 タイトルで言うからには、ひたすら前進するのが正解だと思った。『ひたすら前に進んで脱出しましょう!』とワールド説明文にもあるし、とりあえず素直に走り続けた。
 私は壁に身体をぶつけながら、ひたすら通路を走る。多分、すり抜けられる壁があるのだろう。角を曲がるたびに現れる下り階段では、ジャンプして天井に頭をぶつける。ひょっとしたら、それが突破口になるかも知れないと。
 ぐるぐる回り続けて二、三分。説明文によると、『道中やゴールに映えスポットをたくさん作った』とのことだが、景色の変化が全くない。流石に不安になってきて、「逆回りが正解だったか?」と思わずにいられない。
 そこでリスポーンして、今度は後ろを目指して走り続ける。上り階段を駆け上がること数十秒。「やはりこちらも不正解だったか……?」と、再び不安に駆られながら、曲がり角に差し掛かった瞬間。フェンスに行く道を阻まれた。
 その行き止まりが、私にとってはむしろ希望。フェンスに何か仕掛けがあるはずだと、私は一歩踏み出す。
 と、ここに来てついにすり抜けられる壁、というか床を発見! 私はフェンスの前で落ちていく。空中で慌てて仰け反ったのが悪いのか、真下にある床に着地するどころか、そのまま奈落の底に落ちていく……。
 気が付くと細長い一本道に降り立っていた。「また通路をぐるぐる回るのか……」と、どっと疲れが出てきた。ただ走るだけかと思いきや、想像以上に難しい脱出ゲームだ。先を目指しているが、先は長い。

 それから私は、再び廊下をぐるぐる回った後、やはり再び落とし穴に落ちた。今度は難なく地面に着地。そこはちょっとした部屋になっていた。微かな解放感とそれ以上の不安を感じながら、私はサキヲメザス。
 そうすると、今度は青い空間に辿り着いた。青い床が一面に広がっているのが、無機質で不気味だ。今度こそ隠し扉があるのだろうか? 慎重に部屋の中心に歩いてくと……やっぱり落とし穴だ。私は下の階層に落ちてしまう。
 下の階から見上げると、どうやら正解のルートだけが白い裏地になっていて、落とし穴はマジックミラーのように透けて見えた。なるほど、原理としては簡単だ。私はそう思って、部屋の入口に続く階段を登ってやり直す。
 と、上に来た瞬間に制作者の思惑にハマってしまう。そうだ、せっかく記憶したつもりが、上から見ると正解の床も間違いの床も全部同じに見えてしまって、記憶したつもりが自信がなくなる。あてずっぽうで部屋の中心に向かって走ったが、案の定、より高い所から下の階層に落下するばかりであった。
 そういえば、知り合いのあんこさんという人から聞いたことがあった。「無慈悲な青い床がそこにはある」と。また別の知り合い、むぎさんという人が言っていたことも思い出す。「落ちるの怖くてジャンプしながら超えた記憶があります」と。
 それから私は、メモにも写真にも頼らず、自分の脳だけを頼りにしては、正解のルート辿ろうとしてやはり落ちるのを、数十回は繰り返した。多分、十分間以上はその部屋にいたと思う。正直、落ちすぎてちょっと酔ってきた。

 それでも、やっとの思いで正解のルートを辿ると、程なくして第1ゴールにたどり着いた。無機質な壁や廊下ばかりを見てきた私に、ポップな柄の絨毯や、花、観葉植物がある部屋が、どれほど安心感をもたらしたことか。私は「1」とプリントされたポスターの間に挟まって記念撮影をする。

 そう、「1」。噂によると、このワールドには第2、第3のゴールがあるらしい。せっかくだから、それらも攻略してやろうじゃないか。私は青い標識で示された、スタート地点に戻る道を通り、例のレンガ壁の細長い通路に再び舞い戻る。
 第1ゴールを目指したのと同じ時のように、私は落とし穴に再び落ちた。仕組みが分っていれば、もう驚くことはない。というか、青い部屋で落ちるのに慣れてしまった。
 そういえば、さっきは落とし穴に落ちた後、青い部屋に続く階段をすぐに登ったが、この部屋にも何か仕掛けがないだろうか? 私は壁の片っ端から体当たりをかまし、すりぬけられるところがないか筋肉戦法を実施する。

 そして……あった、やはり隠し通路が。私は意気揚々とその通路を歩いていく。さっきの青い部屋に比べたら、楽な道のりだ。なんて思っていたら、今度は無機質な白い部屋が現れた。

 もしやここも、正解のルートを辿らなければならないのか? 私は恐るおそる、壁伝いに部屋を探索する。ちょっとでも足先が壁の下に落ちたら、意地でもジャンプして戻って来られるよう、慎重に。
 だが、私の警戒心とは裏腹に、第2ゴールには呆気なく達してしまった。鹿の剥製がたくさん存在する部屋。壁に描かれた「2」。第2ゴールだ。拍子抜けしてしまう。それにしても、clusterの公式クラフトアイテムだけで、よくここまで多様な仕掛けを演出できるなんて。制作者は本当に玄人だと思う。

 何はともあれ、残る第3ゴールに向けて出発だ。私は再び、罠がありそうで、罠がない白い部屋を探索する。すると、どうだろう。再び擦り抜けられる壁、つまり隠し通路を見つけた。それから間もなく――。

 第3ゴールの窓越しに、青空が垣間見える。今まで閉塞感ばかり感じてきたゲームワールド、その終点に相応しい爽やかさだ。すーっと息を吸うと、観葉植物の瑞々しささえも身体に取り込まれるようで癒される。ついに終わった、脱出できたという達成感で満ち溢れる。
「おめでとうございます!」
 頭の中に、そんな文字が浮かぶ。ハッと後ろを振り返ると、OLスーツを着たポニーテールの女性が立っていた。いかにもデキる女性であることを伺わせる人物は歩留(ぶど)マリ、他ならぬこのワールドの制作者だ。彼女は満面の笑みと共に、惜しみなく拍手を私に送り続ける。
「実は、たった今アップデートしました!」
 私は「アップデートとは?」と尋ねる代わりに、頭に「?」を浮かべた。
「第3-2、そして第4ゴールが追加されました」
 言われた瞬間、私が味わっていた達成感が消失し、何とも言えない脱力感に襲われる。
「頑張ってゴールで写真撮ってください!」
 歩留マリがそう言って親指を立てると、私は土下座するようにその場にへたり込んでしまった。

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