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インドtraveling diary Ⅱ 旅の達人は退役軍人とCA

         Ⅱ

バンコクへはそれまでにも旅行で何度か訪れたことがあったので、私は自分の欲しいものがあるマーケットについては目星をつけていた。 求めていたものがある程度は見つけることができた。 この時宿泊したバンコクのゲストハウスでの出会いは印象深いものだった。

カオサン通りから少し離れた細い路地に、タイの古い木造建築風のゲストハウスを見つけた。 シングルルームがあればとタイ人スタッフに空きを訪ねた。 しかし、空いているのは4人部屋のみだという。 はっきりと覚えていないが、一泊400円くらいだったと思う。 4人相部屋?? 2段ベッドですか? と尋ねると、NO、一つの部屋にシングルベッドが4つあるという。 想像がつかなかった。 私は不安気にどんな人が滞在しているのか尋ねた。 30代後半の女性が一人、Old Manが一人。 しかしあなたがそこに泊まっても全く問題はないとはっきり言われた。 私は注意深いタイプだが、そのスタッフの話はなぜか信じられた。

部屋は良い感じに年季が入った黒光りした木材でできており、かなり広めの清潔な部屋だった。 外の強い光とのコントラストで中はひっそりと薄暗く、風通しの良い空間の四隅にベッドが配置され、合計4人が眠れる部屋だった。 特に仕切りやカーテンなどはなく、蚊帳のみ。 私が訪ねた昼下がりにはOld Manのみが部屋にいた。

彼はマレーシアの退役軍人だった。 60代後半くらい、小柄でまるで日本のおじいさん。 僧のような雰囲気を醸し出し、清貧という言葉がしっくりくる穏やかな男性だった。 彼は仕事を早期退職し、もう何年も故郷を離れ、ずっと世界中を旅しているそうだ。 身の回りのものは必要最低限。 所作にも無駄がない。 食事時になると、アルミのお皿とコップを取り出し、買い置きしてあるブラウンブレッドになにやら挟んだサンドウィッチをつくる。 そしてそれをゆっくりと食べる。 ティーバッグで入れた温かいお茶を飲み終えると、手馴れた様子で片づけ、あっという間に元の清潔なスペースがよみがえる。 食後に彼は同じ人物に世界のまったく違う場所で、3度ばったり会ったことがあるよと、旅の偶然を語ってくれた。

女性の方も夜になって戻ってきた。彼女はオーストリア人で、オーストリア航空のCA。仕事がら世界中を飛び回り、その先々で旅をしているそうだ。黒髪で、はっきりとした意思を思わせる落ち着いたまなざし。またもや私は心から安心した。私のそれまでのCAのイメージに反した彼女は、日に焼けて、化粧っ気は無く、超安宿にバックパック一つで滞在する旅人だった。自由だなと思った。人からどう思われるかなどという世界からかけ離れて、自分の好きなことを、ただ人知れずやっている人達。そもそも西洋では、日本のようなCAのイメージはないのかもしれないし、私が知らないだけで、日本にもこのようなCAさんはいるのかもしれないが。。。

二人は、だれでも週に一度無料でご飯を頂ける日があるといって、あるお寺へ私を連れていってくれた。食事は菜食だが、バリエーション豊かな色とりどりの美味しいおかずが、屋根付きオープンエアスペースにたくさん並んでいる。それらをめいめいバイキング形式でとっていく。デザートにはおそらく豆乳で作られているであろうソフトクリームまであった。ボランティアスタッフは穏やかな笑顔で皆を迎え入れてくれる。「炊き出し」のようなに困っている人を助けるというような雰囲気はなく、さながらちょっと素敵なベジタリアンレストラン。実際、地元のタイ人に交じって、バックパッカーや長期滞在者を思わせる外国人も老若男女たくさん来ていた。食べ終わると、各自が洗い場で使った食器を洗い、定位置に片づける。仏教国であるタイならではであるが、このようにだれもが無料でごはんが食べられる場所の存在は、人が生きる上での安心感につながってくるだろうと強く感じた。

オーストリア人の女性は私の次の行先である、チェンマイでおすすめの安宿を教えてくれた。その宿も簡素であるが、清潔でとても居心地の良い宿だった。この時私はバス・トイレ付きの部屋の方が必ずしも上等であるわけではないことに気づいた。共同シャワー、トイレを常に清潔にしてくれているホテルでは、自分の部屋にトイレがあるより快適である。寝ているそばにトイレなどの水場がないことはなんだかとても空気が澄んでいる気がしたのだ。 旅の達人とは多くのお金を使わずとも、満足できる情報と知恵を持っていた。


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