かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page5】
コンコン!
恵美が、ハルと話しているみちるの部屋のドアを開けながら
「ミズキちゃん、今、ありさちゃんと繋がったみたいですよ!」
リビングに出ると、そこにはまだ残っている住人と、奥のキッチンで向こうを向いて立ってケータイを耳に当てているミズキがいました。
「ありささん、大丈夫ですか?今、どこですか?」
「……ううう……わからない……山のほう……それと川……真っ暗でこわい……いたい、足が……」
「ありささん。けがしてるんですか?ひとりですか?」
「……ううう……ひとり……でも追ってくるかも……」
「え?だれが追ってくるんですか?」
「わからない……車で連れてこられて……コンビニから走って逃げて……ああ、バッテリーが切れそう……」
ミズキがありさと話している様子をみな心配げに見つめます。
「ありささん、落ち着いて!スマホの位置情報、オンになっていますか?マップを開いて、現在地をタップして、そうすると今いる場所が出ます。それから……現在地を共有をタップして、あ、そうだ、私のLINEに送ってください!」
数分後、ミズキはLINEの着信を見て「ええっ?!」と声を上げ、振り返り、
「これ、うちの近くです!」
ミズキはすぐにLINEに返信し、自分の家に電話をかけ、ありさの現在地を知らせ迎えに行ってくれるよう頼みました。さらにありさに電話し、
「ありささん、大丈夫です。うちの親がすぐに迎えに行きますから、その場を動かないでください!」
「よかった、無事で。それにしてもすごいねミズキちゃん。現在地をLINEで送るとか……よく知ってるね。声かけと判断が的確……ほんとすごいわ」
ハルが感心して言うと、ミズキは少し照れたように
「現在地を知らせる方法は移動教室の時に友達に教わったばっかりで……。それと、ありささんの不安な気持ち、よくわかるから……」
「7月の春日部一人旅で一回り成長したみたいね。それにしても、ミズキちゃんが奥多摩から春日部へ。ありさは春日部から奥多摩へって、不思議なもんね」
バッテリーがいよいよ切れたのか、ありさからの連絡は途絶え、じりじりと待つ間は、ものの20分くらいでしたが一同には数時間に感じる長さでした。
ミズキのケータイが鳴り、ありさを見つけたという知らせが届きました。ありさは捻挫をしているようだということ、家に連れて帰ってからまた連絡することが伝えられました。
「ミズキちゃん、ありがとう。少ししたら私からもあなたのおうちに電話するから。ゲストルームでゆっくり休んで」
「はい、あの、明日私、朝食済んだら家に帰ります。ありささんに早く会いたいので」
みちるに
「ありがとうミズキちゃん、ご両親によろしく伝えて。迷惑かけてすみません。たぶん今あたしが行くよりミズキちゃんのほうがいいよね」
そう言われて、ミズキもうなずきました。
「はい、一同解散!」
ソファでうたたねしていた裕太も恵美に起こされ腕を引かれ、他の住人もそれぞれ部屋に戻っていきました。
一、ありさの家出⑥ に続く
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