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全裸に貝2つ

もし、「全裸に貝2つ」で会社生活一日を過ごしたら、10億円もらえるとする。あなたならやりますか?という問いにつき、同僚と議論した。 

一から説明します。「今年も年末ジャンボ外れたよ」という報告の度、我が家では、ほとんど毎年、以下の非常にバカバカしく不毛な問題につき話し合う。「もし、家から最寄り駅まで(徒歩20分程度の距離)を、全裸で歩ききった場合、10億円もらえるとしたら、やるか?」というネタ。お前なんぞが全裸になったからって誰もビタ一文くれんわという大前提や、警察に捕まるだろ、という大前提はこの際、当然無視。途中、近所のおじさんおばさんのみならず、何十年ぶりかに運命のイタズラで初恋相手に遭遇する可能性も大いにあるが、いかなる知り合いに遭遇しても、爽やかに、顔色ひとつ変えずに「こんにちは!」と元気に挨拶し、早足で逃げることは許されず、悠然と歩き続けなくてはならない。私以外の家族は、「いくら10億円もらったからって、絶対に恥ずかしくて出来ない!」と毎年頑なに拒否するのであるが、私は毎年、静かに快諾する。

だって、どんなに恥ずかしくても寒くても、たったの20分で10億円なんて、why not?じゃないですか?不幸にも、全裸の私にすれ違った知り合い達は、私を哀れな目で見つめ、「ついにアイツ、狂った」と噂するでしょうが、「そんなことが何だと言うのか、痛くも痒くもない!」と言い切る私に、「どうかしてる」と家族は眉をひそめる。私からすると、そんなことで、10億円を得るチャンスをみすみす逃すなんて、どうかしてる。「金の亡者、恥を知れ」「そんなキレイごと言って、本当に10億円もらえるならやるくせに」と、お互いに胡散臭い目つきをして、その議論は終結する。

しかし、舞台が駅ではなく、会社だったらどうだろうか。さすがの私も、急に目が泳いでしまう。「会社で全裸で一日を過ごしたら10億円」だ。一人で抱え込むには難題過ぎるということで、先日、ランチの際、同僚のOLたちにぶちまけてみた。やはり、誰一人として即快諾とはいかない様子。「じゃあ、せめてさ、私のデスク周りだけでも照明落として」とか、「あのエロ部長が出張不在の日にして」とか、皆、少しでもハードルを下げようと必死に。ある者は「当日恥ずかしくないように、あらかじめ、フロアの男性全員と関係しておけばいいんじゃない?」という突拍子もない案を真顔で提案してきたが、「フロアの男性全員と関係することは、全裸で一日過ごすことよりも困難」ということで即却下。

色々と議論の結果、「①実行は、会社を退職する最終日でよし=恥はその日一日のかき捨て ②体を隠す道具として、貝を2つまで使用してよし」ということになった。

ほどなくして、①はかえってハードルを上げる条件であることに気付く。確かに、今日を最後にほとんどの人と二度と会わないのだ、という点では後腐れがない。だが、基本的にデスクワークの私達にとり、普通の日であれば、必要最低限の動きしかせず、自分のデスク周りに留まることが可能なのに、最終日となれば、お世話になった関係部署の皆さんへ挨拶に周らなくてはならない。全裸で何度もエレベーターを乗り降りし、色んなフロアを訪ねるなんて、考えただけで失神しそうではないか。おまけに、夕方ともなれば、所属部署の人の前で、部長から花束を受け取り、退職挨拶のひとつもしないとならない。全裸で花束……これは……。

そして②。もちろん、体を隠すのに貝を利用するというのは、往年の武田久美子から連想したわけだが、「武田久美子が写真集で巨乳を隠していたような大きな貝(ホタテとか?)ではなく、ハマグリクラスとすること。しかも、個数は3つではなく2つ」という条件がついた。ホタテ貝3つだったら、当然2つを両方の胸に、1つを股に使用することでしょう。でも与えられた貝は2つ、しかも大きさ的にハマグリクラス。これじゃ、股に使用しても「焼け石に水」感満載で意味がないと思われるので、やはり両胸のトップ隠しに使用か?ということに。「でもさ、隠れなかったら恥ずかしいよね」という声も上がったり、「私は胸には使わない。ハマグリであっても、股とお尻の両面に使う」と言い切る者も。

こんなバカバカしい会話のランチを終え、涼しい顔をしてそれぞれ着席。気を取り直してすぐさま仕事に取り掛かかったというのに、一人の同僚が席までやって来て、「ねえ、やっぱりホタテにしようよ」と真顔で呟いてきたので、どうにもこうにも笑いが止まらず。隣の席の男子が怪訝な顔をするので、「いやさ、あなたたち男性はハマグリひとつすら不要かもしれないけど」と言い放ち、更に彼の思考を迷宮入りさせ、私たちはその日一日、ニヤけが止まらないのでした。

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