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狂乱のテレワーク

女うるせえ!男いい加減!このざっくりとした論理が正しいことを、この度のコロナ禍で痛感した。

一から説明します。
今みたいな騒ぎが起きるなんて、全く想像もつかなかった昨年の秋、私は学生時代からの長い付き合いである友人の実家に泊めてもらった。朝御飯の時、友人のお父さんが台所へやって来た。そして一言、こう言ったのだ。
「おーい、母さん、飯炊けてるか?」と。それに対し、友人のお母さんは、誰に聞かせるとでもなく、かといって客の私にもハッキリと聞こえる音量で、こうまくしたてながら、ご飯をよそって言った。
「飯炊けてるか?って、私が一日でも飯を炊かない日があった?雨の日も雪の日も、どんなに具合が悪くても、毎日炊いてますが。逆に聞きたい。私が飯を炊かなかった日が、ここ数十年で一日でもあるか?ってね!!!」
友人のお父さんは、そんな嫌味にはすっかり慣れているようで、うるせえな、という顔を一瞬したのみで、決して反抗せず、かといって「そうだな、悪かった」とか、「いつも飯炊いてくれて、ありがとう」などと言うわけもなく、黙ってご飯をかきこんでいた。その話を我が母親にしたら、我が母親もうっすら涙さえ浮かべて「分かるわ、その気持ち!」と完全同意していた。客観的に見れば、友人父に悪気は全くなく、「おはよう」と同義くらいの挨拶として聞いているわけだ。長年の信用と実績で、飯が炊けてることなんて分かっている。それでも、友人母からすると「飯が炊けてることが当たり前だと思うなよ。いや、当たり前にしてやってんのに、いちいち聞くんじゃねえわ」ということだ。
「女の言うことはいつも正しい、だけど、小うるせえ」……思考的に男性度数高めな私は、改めてそう感じたものだ。

それから現在……このコロナ禍に於いて、テレワークという形態がとれている身の上は恵まれている、という大前提は分かってはいても、本当に本当に、会社の女たちは、とにかく男どもにキレまくっている。CMなんて見ますと、洒落たカシミアのセーターの袖をまくったヤンエグ(死語)パパが、綺麗なリビングのソファに座り、片手はパソコンをいじり、もう片手で赤ん坊の頭をなで、その横では私立小学校に通う聡明そうな女児がオンライン授業を受けており、それを対面キッチンから見守る美人妻。「家族との時間を共有しながら、仕事も円滑に行う。これぞ、新しい生活様式……」とか言ってるが、すいません、チーン……もしかしたら、日本のどこかにはそんな素敵なパパも1人か2人いるのかもしれないが、私が目撃した世のパパたちは、常に妻や同僚や部下の女にキレられている。

まず、話にならない窓際オヤジ。コロナ騒ぎが起きる前から、東京五輪開催時対策として、会社としてテレワークの整備をし、社員は練習を積まされてきたのに、「俺はテレワークなんてしない。客のところに足を運んでナンボで生きてきた営業マンだから」と、既に足を運ぶべき客なんていないくせに、頑なにテレワークを拒んできたツケで、いざ、出勤禁止期間となっても、テレワークが出来ないオヤジ。「何をどうすればいいんだ?」と聞かれましても、そもそも「家にWi-Fiがない」とか言い出す。「ビックカメラに行ってWi-Fi買って来い。ビックカメラのお兄さんに説明聞いてこい。buffaloってどれですか?って聞いてこい!」頭に来るあまり、ものすごい雑な女たちの暴言を真に受け「ビックカメラ。Wi-Fi。buffalo」と、そのまま黒手帳にメモっちゃって、もう手がつけられない。が、彼はその言いつけを守り、buffaloを家に設置し、無事にWi-Fiを開通させた。そして、オンライン部会に彼がヌボっと顔を出した時には「出た!!やるじゃないか!」といった意味で、女たちから拍手が飛び出した。オヤジの家の背景が、案外と洗練されていたことも女たちを萌えさせた。低レベル。

無責任男。このような非常事態になると、本当に責任感のある男と、とにかく出来るだけサボってやろうという男の二極化が激しかった。無責任男は、「ねえ、会議に入れないんだけど」などと平気で電話してくるが、そこで女たちにキレられる。「はぁ??あなたをオンライン会議のホストに設定したって私、言いましたよね?書きましたよね?あなたが開始しないから入れないんじゃないですか!大体、自分で会議招集して欲しいんですけど!そこを人にやらせておいて、入れないってなんですか?」「あ……そういうこと?ごめん、ごめん。ど、どうすればいいの?」「英語読めないんですか?『If you are host, start meeting』って文字見えません???」「あ、はいはい、スタートしますぅ」……ここでも男に悪気はなく、ただ受け身なだけなのに、とにかくキレられる。

上記のような明らかなダメンズだけでなく、組織の長と言われるおじさんたちも受難。「あの!全社通達は先ほどこのように出ましたが、当組織としては、明日からの勤務体系につき、どのように致しますか?組織長として意思表明をなさった方がいいかと思います!」などと秘書にキレられ、「えーーでもさ、他の組織はどうしてるんだろう?」などとモゴモゴ言おうものなら「他の組織は他の組織ではないでしょうか。とっとと決めてください!」とすごまれ、「出社出来る人は出社して、テレワーク出来る人はテレワークで。まあ皆、自分のやりやすい方でいいよ」なんて曖昧なことしか出てこない。その曖昧な結果にキレた秘書は、組織全員に一斉メールとして通達する際も「ハッキリしないことで申し訳ありませんが、以下が組織長のご判断です」と、ハッキリと組織長を公開処刑。

その他、ダラダラとWEB飲み会をしている夫にキレているであろう妻が、何度もPCの背後で皿を落とした?ような、ガチャン!という嫌がらせのような音を立てる瞬間にも何度も遭遇。妻にしたら、日ごろ全く家にいない夫が、いきなり毎日家にいて、場合によっては自分の部屋ではなくリビングを占拠し仕事をし、朝・昼・晩とご飯を食べるのだ。無理。その上、WEB飲み会だ?ふざけんな!という気持ちはよく分かる。が、「ウチの妻、嫉妬深いからさ。WEB飲み会に女子の参加者がいると、不機嫌になるんだ」……え???そっち???はぁ????こっちも、おたくの旦那とWEB飲み会なんて時間の無駄の極致で本当はしたくないんですけどね、社内コミュニケーションの一環でメンバーになっちゃってるだけなんすわ。嫉妬のあまり皿を背後でガチャガチャやる必要、ほんと1000%皆無なので!と叫びたいが、その声がPCを通じて聞こえたら聞こえたで地獄が繰り広げられるのでしょうね。

というわけで、小さな小さな私調べでは、「新しい働き方」なんて言いましても、実態は、女がキレまくって、男が謝りまくってる、ダサめのテレワーク2020でしかないです……でもこれも、月日が経てば、ドタバタと小競り合いを繰り広げながも、皆で何とか会社を回したなぁという思い出になるんでしょうか。

ところで、こんなくだらないことばっかり書いているのに、先日、かの有名なbar bossaの林さんが私の紹介文を書いて下さったのです!嬉しい!林さん、ありがとうございます。上記のWi-Fiオヤジのこと言えないくらいIT音痴の私は、この度「東京嫌い」のメンバーたちとの連絡用に、今になってまさかのTwitterアカウント創設。おそるおそる検索したら、林さんはじめ、いろんな方が大昔から私の記事を紹介してくれていたことが分かり、ビックリ!今頃、感想を読んで嬉しく思ったりしています。林さん、新刊、買って読みますね。

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