豚と呼ばれた男

なんかこのタイトル、「海賊と呼ばれた男」みたいでカッコいいな。


さて、私はずっと悩まされてきた。自分の顔に。

ふっくら顔の私はどれだけ身体が痩せていても、顔が太って見えた(と思い込んでいた)

身長166cm、体重60kgで筋トレをむちゃくちゃしてたので筋肉量も相当あったのにも関わらず、当時の上司から『痩せろ痩せろ』と言われ続けていた。



体育会系の仕事だったから、そう言われること自体はそこまで不思議ではなかったけど、筋トレに加えて毎日10〜13km走っていた私にその言葉はあまりにも辛すぎた。

たしかに小学校時代は太っていた。だから、それが原因で「豚」と言われていじめられた。

それがトラウマ過ぎて、太っていることに過剰に反応し、毎日十数キロ走ってるのは痩せるためだけだった。

体力をつけたいとか、トレーニングしたいとか、そういう目的なんてさらさらなく、ただただ顔が痩せて見えるためだった。


年末年始もクリスマスも大雨の日も走っていた。
すべては痩せるためだけに!!!

鏡を見ては絶望した。必死に頬を細め、痩せている顔を鏡に対して演出した。

本当に滑稽なようだけど、当時の私にとっては死活問題だった。


そして、私はもっと痩せることにした。

例えば、職場に持って行くお昼ご飯は本当に小さいタッパーに玄米を詰めただけ。梅干しさえもない、殺伐としたご飯。

食事制限に加えて、圧倒的な運動量。

懸垂100回、ベンチ10回×3セット、腹筋100回×3セット、腕立ての回数は忘れた(笑)他いろいろ。

それに加えて、毎日10〜13kmのランニング。

身体は当然のごとく痩せていた。腹筋は割れ、身体だけはいい感じに仕上がっていた。


それなのになぜ顔は痩せない!?なぜ!?なぜ!?なぜ!?

なぜ顔はこんなにも山下清ばりにふっくらなのだ!!


そんな時に上司から、

「あんたもっと痩せなさいよ」

と女口調で言われた時の絶望感。



私の心は泣いていた。

「ただ顔が太って見える。」

たったこれだけなのに、当時の私には死を連想させてしまうほどだった。



私は私の顔が豚のように見えてならなかった。

そして、それがあまりにも苦痛。


それでも私は走り続けた。

そして、走り始めて4年目の時、アスファルトの上を走り過ぎた私の右膝に限界がきた。

いきなり「ガクンッ!!」という衝動。

走ろうにも走れない。私はそれでも右膝を引きずりながら走っていた。ここまでくると病的だ。

とりあえず家になんとか帰り、次の日もまた走り出す。書いててヤバいな(笑)


それでも右膝が痛くて痛くて走れない。私はまたしても絶望した。


私はついに走れなくなった。

痩せることが唯一の命を繋ぐ生命線だと思い込むほどに、私の太ることへの恐怖心は物凄かった。


しかし、もう走れない。

もぉ〜、ひとりでぇ〜、走れないぃ〜

ときぃ〜のかぜがぁ〜強すぎてぇ〜

あぁ〜うしなうぅ〜ことなんてぇ〜

慣れたはずぅ〜だけど今はぁ〜

それから私の走らない生活が始まった。


しかし不思議なことに、この時から顔が太って見えることを気にしなくなった。

悩み切ったのだと想う。


悩んで悩んで悩んで、その上、努力して努力して努力しまくった。

でも今思えば、その太って見える自分を許すことから逃げていたのかもしれない。

右膝を壊し、走れなくなった私は観念したのだ。


もう、太って見える自分から逃げられない、と。

豚のようにしか見えない自分を受け入れるしかない、と。

そう、豚と呼んでいたのは紛れもなく私自身だった。


当時の何も分からない私は必死に努力した。

だって、太っている自分が嫌で嫌で仕方なかったから。


決してその努力を後悔はしてないけれど、今の自分が当時の自分に何か言うなら、

「痩せる努力より、太っている自分を認める努力する方が楽だし、結果的に痩せるよ。」

と言うだろう。


もう豚なんて呼んであげない。

変態とは呼んでやるがな。



自分への敬意と誇りを込めて。

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