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爆破ジャックと平凡ループ 如月新一

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如月新一×コルクラボ覆面編集者が送る連載小説「爆破ジャックと平凡ループ」。毎週木曜夜・日曜夜更新です!(全25回)
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2018年2月の記事一覧

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#10-6周目 つまらない男になるぞ

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#10-6周目 つまらない男になるぞ

「おいお前ら、なんの話をしてるんだ!」

 痴話喧嘩に興味を持ったわけではないだろうけど、剣呑な雰囲気だったことを察知した岡本に訊ねられる。

 大変な時に、身内がすいません、という気持ちになりながら、「彼女、別れた恋人なんです。五年ぶりに偶然再会して」と釈明する。

「五年ぶりの再会に水を差して悪かったな」
「いえ、昔のことを責められていたんで、助かりました」

 お前も大変だな、と同情してもら

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如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#9-6周目 大事な話の途中だったから

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#9-6周目 大事な話の途中だったから

 バスの中に執念深い元警官が乗っているということはわかったが、交渉には向いていないようだった。

 十二月の風に身震いしながら目を開くと、目の前にはあかいくつバスが停留していた。運転手の顔を見て、またか、と思いながら俺はバスに乗り込んだ。
 これで、六周目のバスになる。

 警察は頼りにならなかったから、やはり自分の力でバスジャック犯をどうにかするしかない。

 乗り込み、運転手に「港の見える丘公

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如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#8-5周目 元警官は目元を覚えて邪魔をする

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#8-5周目 元警官は目元を覚えて邪魔をする

 俺は四回、同じバスに乗った。四回バスジャックに遭い、四回死んだ。

 時を繰り返して四回も死ねば、少しずつ慣れてきて、考えをまとめられるようになった。慣れとは恐ろしい。

 そこで得た情報は、俺を振った恋人が乗っていること、バスジャック犯人が次のバス停で乗って来ること、駆け落ち中のお嬢様とガタイの良い男が乗っていること、探偵と警察関係者が乗っていること、だ。

 警察が乗っている、という情報は大

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如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#7-4周目 バスの平和を守ったよ

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#7-4周目 バスの平和を守ったよ

 十二月の風が吹き抜け、体がぶるっと震えた。コートを着ていても、まだ足りない寒さだ。

 あれ? 熱は? 爆発は? と目を開けると、そこには、あかいくつバスが停まっていた。運転手が、「乗るの? 乗らないの?」という視線を俺に向けてくる。

 今、犯人は自分がピンチだと悟ると運転手にスピードを上げろと要求し、逃げようとした。

 つまり、バスジャックそのものに目的があるのではない、という

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如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#6-3周目 信じるなら今ですよ

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#6-3周目 信じるなら今ですよ

「動くな! 動くとこの女を殺すからな!」

 そう言いながらバスジャック犯が咲子さんを引きずるように歩き、運転席の隣まで移動する。

「いいから、バスはこのまま走らせてろ」

 運転手への命令を聞き、このままだと一周目と同じく、桜木町駅で爆発してしまうぞ、と内心で舌を打つ。

「お前、なんでバスジャックが起こるって知っていたんだ? あいつの仲間なのか?」
「まさか。あの人質になっているのは、俺の元

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如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#5-3周目 探偵のお仕事は

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#5-3周目 探偵のお仕事は

 十二月の風が吹き抜け、体がぶるっと震えた。コートを着ていても、まだ足りない寒さだ。

 あれ? 熱は? 爆発は? と目を開けると、そこには、あかいくつバスが停まっていた。運転手が、「乗るの? 乗らないの?」という視線を俺に向けてくる。

 さっき、バスは爆発したはずだ。それも、二度もだ。
 俺はセールストークを使って犯人に立ち向かったが、失敗した。
 なのにまた、バスに乗る前に時間が戻っている。

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如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#4-2周目 お嬢様、わがままは困ります

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#4-2周目 お嬢様、わがままは困ります

 グループ行動で、身勝手な行動をしてはいけません!

 そんなことは、小学校や幼稚園で教わるようなことだ。だけど、彼女は教わってこなかったのかもしれない。

 いや、わたしには関係がございませんわ、と思っているのかもしれない。
 このバスは目元と口以外を隠した男にジャックされているのに、お嬢様は気丈に声を張る。

「城ヶ崎《じょうがさき》貿易という名前をご存知ないですか?」

 城ヶ崎、と言われる

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如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#3-2周目 セールストークで立ち向かえ

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#3-2周目 セールストークで立ち向かえ

 俺はバスジャックテロに遭い、一度死んだのに時を繰り返し、再びバスジャックされたバスに乗っている。

 犯人の格好を確認する。
 目出し帽で顔を隠し、紺色のもこもことしたダウンジャケットを着て、黒いリュックサックを背負っていた。ザ・強盗犯というわかりやすい格好だ。

「いいから、このまま走らせろ!」

 と運転手に命令をしている声は、聞き取り辛く、呂律が回っていない。テロを起こそうとしているのがバ

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