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パリ軟禁日記

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2020年3月17日、今日から僕らが当たり前に享受していた移動の自由が奪われる。ここ、自由の国フランスで。外出禁止令が施行されたのは、時が真昼を告げる刻だった。 軟禁状態にある…
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#応援したいスポーツ

パリ軟禁日記 18日目 もう、手放してはいけない

2020/4/3(金) B.C.-Before Corona-1年、僕はバスに乗っていた。片道30分、立ちっぱなしは少し辛い時間だけれど、路線バスの座席は硬いので座っていても腰にくる。市のテニスコートはいくつかの例外を除き、ほとんどが街をぐるりと取り囲む環状線「ペリフェリック」に程近い外縁に位置している。シテ島から円を書くように長い時間をかけて発展してきたパリでは、スポーツとしての歴史が浅いテニスに残された場所はそこしかなかったのかもしれない。所属するクラブのコートもその

パリ軟禁日記 17日目 パリとテニス

2020/4/2(木) 昨日に続き、ウィンブルドン中止を受けて、テニスについての記憶を思い浮かべる。 いま僕のアパルトマンの玄関脇には、次いつボールを打てるかわからないラケットが立てかけられている。3月頭にちょうどガットを張り替えたばかりだった。ガットを張ってくれたのは、個人でそういう商売をしている職人気質のオリヴィエおじさん。テニス仲間の紹介だった。彼が作業場でガットを張り終えるまでの間、近所の公園を散歩した。桜が咲くので有名が公園だけれど、その日はまだ冬のように寒く、

パリ軟禁日記 16日目 ウィンブルドン中止を受けて

2020/4/1(水) 失ってはじめて大切だと気づくものは多い。 残念ながら、失ったことにすら気づかないものもある。 その一方で、失ったけれど、幸運にも偶然の再会を通じて、 はじめてその大切さに気づくものもある。 ベタな少女漫画の書き出しのようだけれど、僕は恋の話をしているわけではない。それは、思い出に深く根付いた、個々人の心の奥底に響く何か、だ。 本日、2020年のウィンブルドンの開催中止が発表された。言うまでもなく、ヤツのせいだった。どうやらエイプリルフールではないら