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同じ幹からの枝分かれ

 自分に「親」はいなかった、
 と認識しているほど恨みの深い私ではあるが、

 岡埜 奈津実(姉)に対してだけは頭が上がらない。
 心から「姉上」と称して何ら恥じないところがある。


パーフェクト九州女子

  「優秀なお姉さんと比べられていじけちゃったのね」
  と何度も決め付けられたがそれで致し方ないくらいには、
  姉は確かに九州において、
  「良い女」とされる条件をことごとく満たしている。

  社交好きで場を明るく盛り上げ気っ風が良い。
  おそらくは2年ごとに転居・転校を繰り返す中で、
  ほぼ無意識に周りに溶け込め気に入られるよう、
  振る舞う術を心得てきた。

  おかげで姉の友人たちを通じて私は、
  両親以外のいわゆる「一般感覚」に触れる事が出来たし、

  姉や母とお近づきになりたい人たちは、
  まるで自分たちにその権利があるかのように私を非難して、
  私に人格を改めるよう迫って当然の如く思っているが、

  実際の姉や母のお友達は私を可愛がってくれるという、
  人間関係の構造全体を眺める事も出来た。


とは言えいつか刺されるぞ貴様

  何のかの言って「良い女」に対しては、
  ある程度の傍若無人も許されるところが九州にはあって、
  私の姉は、

  「一口ちょうだい」と口にすれば、
  「いいよ」も聞かずにスプーンを差し込んで、
  しかもわざわざその一口で、
  中華丼で言うならうずらの卵を、
  平気で食ってしまえるような女だ。

  私がこれをやろうもんなら(やらないけど)、
  その場で集団で袋叩きだと言うのに。

  あと男友達と二人でお泊まり込みの旅行に行って、
  やらせねぇ。
  「そんなの無い無い。私たち、友達だもんねー♪」
  とか引きつった笑みを浮かべるその男友達に言いやがる。

  「たまごっち買う行列の、
   ちょうど後ろにいて声掛けられて話盛り上がっちゃって」
  妹から見てたらその野郎はだな、
  テメェをナンパでゲット出来たほぼ彼女だと思ってんだよ!

  その後出会った義兄さんと結婚し、
  今は長男長女と四人暮らし。
  仲の良かった男友達はフェードアウトの音信不通だ。
  いまだに「どうしてかなー?」とか言ってけつかる。

  妹としては無事で良かったが、
  私個人としてはあの野郎が実に気の毒だ。

  

奴隷と家族の差分

  姉の方でもさすがに親の影響で、
  また実際に目下でもあり私をなめているところはあるが
  (中華丼で言えばうずらの卵食えんだからな)、
 
  引越しの連続で暮らし向きに余裕は無く、
  お互い家を離れるまで姉妹の部屋はずっと一緒。
  新しい土地に移る度に子供社会の内では、
  親よりも姉妹に頼るしかない。

  同じ部屋で毎日寝起きしていればそれは、
  毎日風呂掃除に皿洗いに、
  洗濯に洗濯物干しに取り込み畳んでアイロンをかけているのが、
  ほぼ私である事は認識してくれていて、

  時に「ありがとう」くらいは言ってくれる。

  やってもらって当然などとは思っていない。
  人に接するに当たってこの差分は大変に大きい。

  おそらく姉の方では友達がたくさんいて、
  外で遊んでいる間にお手伝いほとんどやってもらえていて、

  「うちの子全然お手伝いしないのよぉ〜」
  という母の言葉は自分の事だと思っていたし、
  私は当然母から褒められているものと思っていたな。


そもそも親が他人に感謝しねぇ

  父は農村の跡取り長男で、
  6人の叔母さんから期待されまくって育ち、

  母は農村の末娘で、
  確かに人知れぬ苦労があったとはいえ、
  地方ミスコンの優勝者だ(爆)。

  良い事は全て自分たちのおかげだし、
  悪い事は全て自分たち以外の誰かのせいだと、
  両親共に思い込むばかりか口にもしてやがる。

  「しっかり者の長女」役を、
  健気にも勤めてくれていた姉に対しても、
  「あんたがきちんと面倒見ないから、
   ゆきこがダメな子になっちゃって」
  とかほざきやがる始末なので、

  思春期頃の姉が真に受けて、
  「まともになってくれ」
  「友達作ってくれ」
  と泣きついてきた事もあったが、

  「だまされるな姉上」
  「え」
  「母には6歳上の姉、つまり伯母さんがいたが、
   3歳程度の年齢差は共に子供だ。
   親がまず責任を負って然るべきだ」
  「あ」

  といった会話が出来たくらいには、
  私にも個性や長所がある事くらい認識してくれて、
  ある程度は私みたいになりたく思ってもいたようだ。

  「ゆきこは熱中できるもの見つけて、
   毎日好きな事してても許されて良いなー」
  とか言われてたし。

  「私『八方美人』とか、
   『なれなれし過ぎてお友達から嫌われる』とか、
   お母さんからは笑われてる」

  「恐ろしい事実を言うが姉上、
   我が家において良い友達がたくさん作れる人間は、
   姉上だけなんだ」
  「え」
  「そして母上は自分の娘にすらも、
   平然と妬みをぶつけ切れる人間だ」
  「ええええええ」
  「あの両親の下に生まれた割には、
   我々はかなり真っ当に育っている。
   自分たちをもっと誇ってもいい」

  と姉には言い聞かせ切れたんだが、

  姉妹仲の良さくらいで覆し切れる、
  精神圧殺でなかった事は明記しておこう。

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