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親切な暗殺シェーレグリーン【毎週ショートショートnote】

 美しい色彩や、お気に入りの芸術品に囲まれた日々を送りながら亡くなれるというのは、確かに一種の幸せであるかも知れず、そうした品々を、犠牲者の終幕近くの日々のために心を尽くして取り揃えたというのは、確かに一種の親切かも知れない。
 ただしこの場合において親切、と言い得るのは、むしろ悪意をもってそれらを配置した場合である。
 日々触れるだけで空気中に漂う粒子を吸い込むだけで、徐々に人を殺せる成分という物が、かつて存在したし今も名称や化学組成を変えて存在する。代表例がシェーレグリーンでありラジウムでありウランガラスだ。
 実際に美しい色彩を放ち、人々を魅了し、販売側すら毒性についての知識を持たず、誰もが自覚も覚悟も無いままに、当座の流行により知人や時には愛する人を死に至らしめ、自らも取り扱う過程で命を縮めた。
「悪気は無かった」
 という言い訳を良く聞くが、悪気がある方がまだ自他問わず人の気持ちを尊重できている、と私は思う。


(410文字)

 今現在ももしかしたら流行していないとも限らない。

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