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華金とは思えない帰り道の話 秋豆絹

仕事で、今までしたことがないタイプのミスをした。しかも不可逆のミスだ。つい先ほどまで、ようやく落ち着いた職場の空気をのほほんと吸い込んでいたのに。交感神経が働き体中が粟立つ。お腹も痛くなってきた。

ミスが多いくせにミスが大の苦手な私は、退勤後も体が緊張状態から解放されず、完全に気が動転していた。
そんな調子のまま自宅の最寄り駅まで運ばれてしまったせいで、すぐ近くのガストでマルゲリータとちょい盛りポテトを頼んでしまった。

最悪だ。料理はまだあと半分くらいあるが、すでに満足してしまっている。空腹から脱して頭がはっきりしてきた私は、自分のしたことの浅はかさに絶望した。この先に待つのは、嫌な満腹感とこんな油物を選んでしまったことへの罪悪感だ。それでもお残しは許しまへんべえなので食べるしかない。もう自分なんなんだよ~と後悔の念でぐちゃぐちゃになりながら彼らを胃の中にお迎えした。

そうはいってもこのまま帰路につけば、血糖値が急上昇☆急降下☆急旋回☆し、なんの準備もできないまま爆睡してしまうだろう。
避けねば、何としてでも避けねばとスーパーへ駆け込み、糖質大好き人間の味方、森永トリプルヨーグルト(ドリンクタイプ)を購入。すぐさまグッと飲み干し、残った空のボトルを見つめながら自宅へと足を進める。目に映るのはボトルに表示されている勇敢な文字たちだ。

「高めの血圧を下げる」
「食後の血糖値の上昇をおだやかにする」
「食後の中性脂肪の上昇をおだやかにする」

その言葉に完全にすがっております。お願いします、森永トリプルヨーグルト様。そのお力を存分に発揮くださいませ。
そんな神(森永トリプルヨーグルト)頼みをしているうちに、なんだか惨めな気持ちになってきた。
私はいったい何をしているんだ。過度な満腹が愚かさの証拠である。お腹も痛くなってきた。1日のうちに別の原因で2度も腹痛を引き起こす20代女性OL、恥ずかしくないだろうか。

どんよりしながら歩き続けると、遮断機が鳴り、行く手を阻んだ。
どんより待っていると、遮断機の向こう側の人混みの中で、電車の通過を待つ高校生3人組(男子1人女子2人)が目に留まった。なぜ目に留まったかというと、遮断機のサイレンに合わせて、頭から左右に体を揺らしていたからだ。
カーンカーンのテンポではない。すでに片側の電車が通り過ぎ、逆方向の電車を待っているのでカンカンカンカンの方なのだ。
もう3人とも頭がヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンしちゃっているのだ。

もはやすべてがどうでもよくなった。あんな姿を見てしまったら、いいものを見せてくれてありがとうと言うしかないじゃないか。おかげで、切った爪の形のようなほぼ新月の三日月を、ニコニコ眺めながら帰る羽目になった。

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