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誕生日の日記 七緒栞菜

 四半世紀を生きたってことか。
 25になった朝はどんよりとした曇り空だったけれど、悪い気はしなかった。

 冷凍庫にはまるまる一本のバゲット。食べるときのことを考えなかったのだろうか。起き立ての私は、起きていても寝ぼけていたかのような行動を取った過去の私に少し笑いながら、凍ったままの硬いバゲットを包丁でぎこぎこ切った。のこぎりが欲しくなった。やっとのことで切れた不揃いなバゲットを3分ほど焼き、ミックスベリーのジャムをぬった。あとは、いつもより少しだけ幅広に切ったベーコンでちょっとリッチなベーコンエッグ。ヨーグルトには、はちみつをかけた。最後に、いつものようにコーヒーを淹れた。涼しかったので、久しぶりにホットで。少しだけいつもよりも華やかな朝食。自分で作り出すちょっとした幸せが好きだ。

 仕事が追いついていなかったので、外出する前にブローチを磨いた。翌日に出店を控えていたので晴れになることを祈りながら磨いた。

 赤い車の中で揺られながら、ずっと行きたかった本屋さんに行った。ドアを開けると、名前を呼びながら優しく迎え入れてくださる店主。館内の利用方法を伺ってじっくり本を見ていると、気さくに話しかけてくださった。私は、これまでずっとひそかにSNSを拝見していたことや、実は過去に数回お会いして本を購入していたこと、これから開きたい場の話などを話した。いちお客さんとの営業トークではなく、私たちとの会話を純粋に楽しんだり疑問に思うことを問うたりしてくださっていた気がして嬉しかった。優しくて暖かい言葉をたくさんたくさんいただいた。本当に、頑張りたいと思った。

 お昼は近くの喫茶店へ。アンティーク風の佇まいの建物と薔薇の花が、雨の中、いい雰囲気を出していた。私はハンバーグステーキとブレンドコーヒーを、彼はハニートーストと本日のコーヒーを選んだ。伺った本屋さんの素敵さを2人でこれでもかと話しながら、自分たちのこれからの話をたくさんした。どう転ぶかはわからない、いや、それ以前に、きっとたくさん転びまくるのだけれど、いい場所をつくっていきたいことは確かだ。そう思った。

 お昼のあとは県内に新たにオープンした本屋さんを巡った。こんなのいいね。私たちはこうしたいね。そういう時間が、今は何より楽しい。

 一度家に戻り、購入してきた本を眺めたり読んだりしながら少し時間をつぶして、近所のスペイン料理屋へ歩いて向かった。スペインのビールやワインを飲みながらいただく料理はどれも美味しくて、中でも、エビとチーズのアヒージョにはほっぺたが落ちるかと思った。ゆっくりとした外食はなんだかんだ久しぶりで、嬉しかった。最後にいつものバーに寄って、近頃決まって頼むジントニックを飲んだ。やっと名前を覚えられた。私の好きなジンはSIPSMITHのV.J.O.P.(志乃田さん声かけなくてごめんね。今度はまた一緒に。)

 非日常を味わう特別な一日よりも、私には、日常の延長の特別な一日のほうが性に合う。今日は、いい日だった。

 回った本屋さんで『誕生日の日記』という表紙を見かけたので、書き残してみようと思います。25歳の誕生日記録。


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