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代金のうちこの分は…… 文箱ゆづき

前の記事に引き続き旅行記のようなものを。


先月、ドイツのディンケルスビュールという街を訪れた。
日本人に人気なローテンブルクの隣の街。そこは、ロマンティック街道沿いの中でも、観光シーズン以外は外国人観光客が少ないということで、ゆっくりできた。



その街で、スパイスと紅茶を売っている店に寄った。
観光客向けというよりかは、いかにも地元の店という感じだ。
一緒にいた友達と私が何を買おうか悩んでいる間にも、「Guten Tag!」(こんにちは)と言いながら、地元の人たちが次々入ってくる。

そう、何を選ぶか迷ってしまうほど品ぞろえが豊富なのだ、本当に。
そんななか、これは!と思う茶葉に出会った。
Dinkelsbühler Traum(ディンケルスビュールの夢)という煎茶だ。このお店は緑茶も扱っていたのだった。
ドイツにまで来て、緑茶を買うのか?とも考えたが、いかんせん名前に惹かれてしまった。その土地の名が入っているとか、いいじゃないか。
個人的にTraum(夢)という単語に思い入れもあった。(ドイツ語のTraumにまつわる話は諸々あるが、長くなるので割愛)
パッケージ越しからも好みの香りが漂っていた。成分を見ると、いくつかの花で風味づけされているらしい。甘いけれど、どこか落ち着く香り。

悩みに悩んだが、ここは理屈じゃなく、やっぱり直感だなとDinkelsbühler Traumに決めた。
(帰国して飲むと、間違いなく好みの風味でおいしかった)



私はその茶葉の他に、隅のかごにあったメッセージカードも買った。
それも一目見て素敵だなと思ったメッセージカードだ。

会計時、店員さんが、あなたにもらったお代のうち、この分のお金は、このカードの製作者に渡すわねというふうに、身振り手振りを交えて言われた。
私は、そういうことを伝えてくれるんだと驚くと同時に、自分のお金は製作者にちゃんと支払われているんだと実感できたことが、うれしかった。
うまく言葉にできないが、人から人にちゃんと伝わっているんだと。
素敵なカードを作ってくれてありがとうと、顔の知らない製作者に、感謝の気持ちを抱いた。

店員さんとは会計のやりとりだけで、言葉を聞き取るのに精いっぱいで、自分からコミュニケーションできなかったのが悔やまれる。
つたないドイツ語でも、そのメッセージカードが素敵だと思ったと伝えればよかったなあ。



店員さんとのやりとりで改めて考えた。
生産者や製作者から直接買う場合を除き、世界のものの受け渡しは、工程が多い。そのせいだろうか。私は正直その人たちへの感謝をそれほどできないまま買っていたように思う。
これからは、精一杯の感謝の念とともに支払いをしたい。

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