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28.退院

7月21日、乳腺外科のM先生が朝の回診に来られる。
「今から管抜くね」
えっ!
心の準備も何もない…。


前日、同室の女の人がドレーンの管を抜いた。
「私、痛いかなって構えてたんだけど、痛くなかったわよ」「先生も痛くないっておっしゃってけど」
昨夜そう話をしていたのに。

先生、その手に持っているのは何ですか……?

「痛み止めの注射打ちますね」
嘘嘘、やっぱ痛いんじゃーーーーーーーーん!!!!

チクっと針の痛み。
待たずして始まる作業。
「先生!痛ッ、痛い!痛いです」
「うん。追加で痛み止め打ちますね」
待ってまって、先生聞いてないし効いてない!
痛い、いたいよーーーー!
(あああああああああ!)
と悶えている間に、処置は終わった。
2本の管をズルズルと抜き、抜き終わった二つの穴を一針ずつ縫ったそうだ。
ガーゼを当てて、テープで固定する。



でも、管が抜けると退院出来る。
やった、退院だ!


主治医である乳腺外科のM先生と、胸の再建の為ティッシュエキスパンダーを入れてくれた形成外科のM先生が話し合って、明日退院できることになった。

ただし、大事をとって、胸の押さえのガーゼは次の診察まで当てたまま、という条件付きで。
結局これでは頭から思いっきりシャワーを浴びることは出来ないんだけど、とりあえず退院は出来る。
次回は26日、予約入れとくねと先生。



翌朝の7月22日、主人に迎えに来てもらう。
コロナ感染予防のため、家族は部屋までは来れないので、エレベーターホールで待っている様だ。
看護師さんに忘れ物がないか最後の荷物のチェックをしてもらい、スーツケースを持ってエレベーター前のホールへ。
見送りに来てくれた看護師さんにお礼を言って、精算する。


二週間ぶりの外だ。
朝、スマホに『熱中症アラート』なんて通知が来ていたが、まさにその通りで、日差しが痛いくらいだ。
車に乗り込んで帰路へ。

病院の中では、もうすっかり動けると思っていたのだが、いざ外に出てみると、意外と段が傷に響いたり、車の揺れが気になったり、へなちょこになっている自分に気付く。
しかも管を抜いたところが痛み始める。
「イタタ…」
思わず押さえると、主人が
「まだ入院してた方が良かったんじゃない?!」
と心配するが、もうする事もなく、痛いのも、痛み止めを飲んで終わりだ。
「大丈夫、薬飲むから…」

家に着くと、一番下の息子が、玄関から飛び出してきた。
「おかえりなさい!」
今にも飛びかかってきそうなのを牽制しつつ、ただいまと頭を撫でる。
上の二人も自室から下りてきて、「おぉ、おかえり」と声を掛けてくる。
部屋はまぁ多少散らかってはいるが、二週間、なんとか頑張ってくれたんだなという努力の跡が家の至る所に見られた。


「イテテ、イテテ」
動くたびに管を抜いたところが痛いが、ソファに座っていると、子どもたちが3人寄ってきて、「もー、聞いて?母さんおらん時になー、」と口々に入院中にあった出来事を、それぞれがそれぞれの言い分で主張している。
賑やかな事この上ない。
うんうん、と聞いているが、うるさくて何が言いたいのかさっぱりわからない。
笑いが込み上げてくる。
「ふふ、ふっ」
痛い。傷に響く。
でも、やっぱり家は良いなぁと、思った。

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