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その小児科の待合室は

子どもが遊べるスペースが

児童館並に広かった。

ただ、ヤケに古びていて

昭和を感じさせた。

なんだか子どもの頃に

私が遊んでいた場所の様にも思えた。


奥からスーツを来た男性が

笑いを浮かべてこちらに近寄ってきた。

彼は、高級な店の前に居るドアマンの様なスマートさを備えているが、

どこかおかしな感じがした。

笑いの仮面を被っているような

嘘の表情だと思うような

信頼できない感じが漂っていた。


その男の人はカルテの様な物を挟んだバインダーを広げ、私に質問を始めた。


『死にたい、と、死ぬ、ならどちらを選びますか?』


え?と一瞬思って彼の顔を見返す。

相変わらずの奇妙な笑顔で

こちらの返事を待っている。


私は心の中で、もう一度質問を反芻し

その意味を感じた。


死にたいと思いながら生きるのと
いっそ死ぬのならどっちだ?


そう自分に問い掛けた。


死にたいと思いながら生きるのなんてごめんだ、それならいっそ終わりにしよう。

私は口を開く。


『死ぬ、の方で。』


彼は、私の答えたことをサラサラと

カルテに書き込みながら

小さく頷いてから、こちらを見て

もう一度ニヤリと笑って

奥の方に去って行った。


息子が来て、なんて聞かれたのかと私に言う。

私が死にたいと死ぬのどちらか選べと言われたと言うと、

え?と言って一瞬固まった。

で、なんと答えたの?とまた質問されて

死ぬと答えたと言うと、

また固まって、なんでそんなこと言ったの?と聞かれる。


なんでだろう?

だって死にたいと思いながら生きるのなんて嫌だからだよ。

でも死ぬのか、それはちょっと未知で

やっぱり怖いな。


そう思いながら起きた。


こんな感じの不気味な人だった


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