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ある音楽家と差しで飲んでいる。

会話が途切れた時、

私は思い切ってあることを尋ねてみる。

ある事とは、

彼ら夫婦の最初のお子さんが突然亡くなった時の事だ。

当時、どんな状況、心境だったのか

今なら聞ける気がしたのだ。


彼は、少し酔った目で穏やかに話し始めた。

子どもが亡くなったその時、

一度止まった心臓が再び一瞬動いたそうだ。

その動いた一瞬、

それは心臓の最期の『一音』だった。

その音はとても特別で印象的な一音で

その音を今も忘れないと彼は言った。


彼の子どもは

この偉大な音楽家である父の心に

こんなにも印象に残せる物凄い一音をプレゼントするために

この世にやって来たのだろうと私は思った。


音は振動だ。

その最期の振動が父である彼に与えたものはなんだろうか?

その振動は彼の音楽に今後も反映されていくのだろう。

彼の子どもは、

彼の音楽を通して世界中の人々にその周波数を与えるために

その最期の一音を残すためにこの世にやって来たのだ

と私は思って無言で酒を飲んだ。


ここで静かに目が覚めた。

どんな音なのか、私も聞いてみたかったと思った。



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